迫るEVシフト、「昭和の」トヨタ系部品メーカーも社運賭けた勝負に

  • 自動車事業の将来不安視、旭鉄工はIT事業参入で本業超え目指す
  • 「生きるか死ぬか」の大変革、経営資源不足で身動き取れない中小も

「アレクサ、勤怠管理をして」-。愛知県碧南市の自動車部品メーカー、旭鉄工本社敷地内の建屋では従業員がタイムカードではなく米アマゾンの人工知能搭載スピーカーに声を掛けて出入りする。中小の製造業らしからぬ光景は、電動化や自動運転など新技術による「100年に一度」の変化への対応に迫られる業界の実情を示している。

新規に設立した「i Smart Technologies」の従業員と話す木村社長(中央)

Photographer: Akio Kon/Bloomberg

  エンジンやトランスミッションなどの部品をトヨタ自動車に納入する旭鉄工の木村哲也社長(51)は、2016年に他社の生産性改善を支援する新会社を立ち上げた。電気自動車(EV)やシェアリングの普及により既存事業の将来性に不安を感じる中で、約20年勤めたトヨタでの経験を生かし自社で行ってきた生産性改善のノウハウが他社にも応用できると見込んだ。

  旭鉄工の社員は約500人。16年度の売上高は155億円で最近はほぼ横ばいが続く。木村社長はEV化が進めば「事業のかなりの部分はなくなる」ほか、シェアリングの普及で国内の自動車生産がさらに縮小するとみる。5年前に旭鉄工に移り、センサーなどを用いて工場の稼働状況を数値化するなどの手法で生産性改善を進めてきた。

旭鉄工の工場内部

Photographer: Akio Kon/Bloomberg

  新会社ではソニー出身者や人工知能研究者などを採用。ガラス張りで壁がなく、トレーニング器具が置かれたオフィスは、70年を超える歴史を持ち、木村社長が「昭和の会社」と表現する旭鉄工の昔ながらの事務所と対照的だ。新会社が販売するシステムはすでに100社で採用され、5年後には売上高で旭鉄工本体を上回ると木村社長はみている。

生きるか死ぬかの戦い

  自動車メーカーはEVへの対応のほか、カーシェアや自動運転、コネクティッドサービスなどの新分野ではIT企業とも競争を強いられる。こうした状況についてトヨタの豊田章男社長は昨年、「『勝つか負けるか』ではなく『生きるか死ぬか』という瀬戸際の戦い」との認識を示した。

  自動車の誕生から100年以上にわたってガソリンエンジンなどの内燃機関が主流の動力源の地位を占めてきたが、電池とモーターで動くEVが普及すれば旧来型のエンジンやトランスミッション、排気系などの関連部品も必要がなくなり、部品点数も大幅に減る。巨大なサプライチェーンを率いるトヨタが自らの存続を危ぶむほどの大変革に備え、旭鉄工のように生き残りをかけて新規分野に打って出る部品メーカーも増えている。しかし、資金力や人材に乏しい小規模下請けでは対策を打てない企業も少なくない。

  立命館大学大学院の佐伯靖雄准教授(経営管理研究科)は、部品メーカーは自動車メーカーに「言われたことを言われたとおりこなし、その範ちゅうで提案することが求められていた」ため、主体的な技術開発や顧客開拓などを苦手としていると指摘。「何から手を付けたらいいのか途方に暮れている人が多く、意外と危機感がない会社もある」とし、事前に行動しなければ「手遅れ」になる可能性があるという。

失われる雇用

  地球温暖化など環境問題への対応が急務となるなか、各国は走行中に二酸化炭素を排出しないEVの普及を促進する政策を進めている。フランスと英国は40年までにディーゼルとガソリン車の販売を40年までに禁止する方針。世界最大の自動車市場を持つ中国でも30年までに新車の半分をEVや燃料電池車などゼロエミッション車とする目標を掲げている。

  こうした動きは多数の自動車メーカーを抱える自動車大国のドイツや日本にも波及。ドイツは30年までの内燃機関の新車全廃も視野に検討を進めている。日本でも7月、政府の主導で50年までに世界で供給する日本車の乗用車についてハイブリッド車なども含む電動車率が100%に達するとの想定が設定された。

  ドイツの調査機関、フラウンフォーファーは6月に公表した研究で、40年までに新車の25%がEVになった場合、電池分野など新規雇用を加えたとしても約7万5000人の職が失われるとの試算を示した。同国で自動車産業に従事する84万人の約9%にあたり、部品メーカーが最も大きい影響を受けるとしている。日本では自動車関連産業の就業人口は539万人と日本の全就業人口の8.3%を占める。製品出荷額と輸出でともに日本全体の2割前後を稼ぐ基幹産業が縮小すれば日本経済に与える影響は大きい。

  富士通総研のエコノミスト、マーティン・シュルツ氏はEVシフトが実現すれば伝統的な自動車産業が集積する愛知県への雇用への影響は「甚大」なものになると指摘。かつてクオーツ時計が世界を席巻したことでスイスの伝統的な時計産業で多くの失業者が出たときと似た状況が生じるだろうとした。

忙しくて手が回らず

鍛造作業にあたる旭鉄工の工員

Photographer: Akio Kon/Bloomberg

  トヨタの本社がある愛知県豊田市が4月に公表した製造業者に対する調査では、自社の主製品が次世代の自動車や産業向けに今後も採用される可能性が「ある」と回答した企業は22%にとどまった。「なし」が39%で「不明」が31%だった。64%の企業は新たな事業展開に取り組んでいるとしたが、人材不足や資金難などを理由に「必要性を感じるが取り組んでいない」とする回答も22%あった。

  豊田市内の輸送用機器などの製造加工業者らでつくる豊田市鉄工会の近藤邦彦前事務局長は、リスクはじわりと近づいているとみるが、従来の注文をこなすのに忙しく将来に向けた準備に「手が回らないのが現状」と電話取材で話した。豊田商工会議所の三宅英臣会頭(豊田鉄工相談役)は電動化で消える部品に対してそれに変わる新しい部品の受注を「補てんしていただきたいというのがささやかな願い」と打ち明ける。

みんな不安

  電動化など成長が見込まれる分野でも、消費者に選択されなければ投資は無駄になる。過去にもEVブームは何度か起きたが、本格的な普及には至らなかった。中小企業にとっては投資の判断ミスが命取りにつながる可能性もあるため、慎重な対応も求められる。

  三菱UFJモルガン・スタンレー証券の杉本浩一シニアアナリストは、自動車メーカー各社の戦略ではEVだけでなくHVなども含めた電動化を進めており、「劇的なサプライチェーンの変化はすぐには起こらない」と指摘。立命館大の佐伯氏は「途上国を中心にエンジン車が当分は成長していく」とみており、「一方的に危機感をあおる見方は正確ではない」と話す。

  大手部品メーカーも例外ではなく変化の波にさらされている。トヨタグループの大手部品メーカー、アイシン精機の伊勢清貴社長は「経験したことのないことで危機感を持つことが難しい」としつつつ、新規事業の立ち上げには時間がかかるため、今は業績が右肩上がりでも「体力のあるうちに変わり始めないといけない」と話した。ジェイテクトの安形哲夫社長は「どのように新たな需要に対応できるのか。これはわからない。みんな不安に思っている」と話した。

  木村氏は旭鉄工の自動車部品事業について、部品点数と車両数が縮小すれば部品メーカーは価格競争にならざるを得ず、「事業としての魅力がない」とみる。「単に部品を作るだけならいくらでも他がいる。失敗を恐れるより挑戦したほうがいい」と社員に言い続けているという。

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