日米通商交渉が始動へ、米国の自動車への輸入制限措置が焦点に

  • 米国は自動車への追加関税を「脅し」にFTA要求か-MRI武田氏
  • 来月の首脳会談の準備会合との見方も、貿易の枠組み巡る溝埋まらず

茂木敏充経済再生担当相とライトハイザー米通商代表部(USTR)代表による新しい枠組みでの日米通商交渉が9日、米ワシントンで始まる。2国間交渉で有利な条件を引き出したい米国と、環太平洋連携協定(TPP)の枠組みで自由貿易を進めたい日本の思惑が平行線をたどる中、米国が検討している自動車や部品への輸入制限措置が焦点となる。

  トランプ米大統領は就任直後の昨年1月にTPPからの撤退を表明。今年3月に鉄鋼・アルミニウムへの追加関税を導入した。さらに最大25%の自動車の追加関税も検討するなど保護主義路線を強めている。これに対し、日本は米国を除く環太平洋連携協定TPP11や欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)など、「メガFTA(自由貿易協定)」交渉で米国をけん制している。

  三菱総合研究所(MRI)の武田洋子チーフエコノミストは1日の取材で、米国は日本に対し自動車への追加関税を「脅し」に使う可能性が強く、米国側の求める2国間のFTAに押し切られる可能性が高いという。「FTA交渉を避けたいなら、日本はカードをある程度出すしかない」と述べ、米国産エネルギーや防衛装備品の輸入拡大を切り札に米国の要求に対抗するとみる。
  
  先月行われた米国とEUの通商交渉では、EUが米国産液化天然ガス(LNG)と大豆の輸入を拡大するほか、双方が工業製品の関税引き下げに向けて交渉する間、新たな関税を導入しないことで合意。自動車への関税導入を巡り高まっていた米EU間の緊張は一時的に緩和された。

  完成車の輸入にかかる関税は、EUの10%、米国の2.5%に対し、日本は0%。前財務官の山崎達雄・国際医療福祉大学特任教授は、「自動車だけで米国に譲歩できることは何もない。日本が米国と妥協するのであれば、自動車以外の分野でやらざるを得ない」と指摘。鉱工業製品だけでなく、農業も焦点になるとみる。

  米国側の事情に詳しい関係者は、両国政府が今回の協議を来月、国連総会出席のため渡米予定の安倍晋三首相とトランプ大統領の首脳会談に向けた準備会合と位置付けており、大きな進展はないとしている。

2兆円規模のマイナス

  2017年の日本の自動車の対米輸出は174万台と全地域の4割を占める。米自動車関税が適用された場合の影響は甚大だ。SBI証券の遠藤功治アナリストは、米国への完成車輸出に25%の関税が適用されると、トヨタ自動車で1兆円、国内自動車メーカー全体では2-2.5兆円規模のマイナスの影響が出ると試算する。

  世耕弘成経産相は7月18日のインタビューで、自動車への追加関税は「日本経済に対する影響は非常に大きい」とし、報復措置を発動していない鉄鋼・アルミニウム関税とは「違う対応になるだろう」と述べ、対抗措置を取る可能性に言及。日本はEU、カナダなど主要な自動車輸出国・地域と同31日に協議し、米国が輸入制限措置に踏みきった場合、協調して対応することで合意した。

日本の対米貿易黒字は続く

リーマンショック後の3兆円台から7兆円台に回復

出所:財務省・貿易統計

  自動車に関しては米国での現地生産化が急速に進んでいる。日本自動車工業会によると、17年の米現地生産台数は377万台と、対米輸出174万台の2倍を超える。茂木再生相は7月20日の記者会見で、米国に進出している日本の企業が、第三国に輸出している総額は700億ドル(約7.9兆円)を上回り、「トータルすると日本企業のさまざまな取引は、米国の貿易にもプラスになっている」と反論した。

  今年4月の日米首脳会談では、貿易の枠組みを巡って意見が対立。状況打開のため「自由で公正かつ相互的な貿易取引のための協議(FFR)」を設定し、今回が初会合となる。しかし、米国側は依然、貿易の枠組みを巡る合意は困難との立場だ。

  ニッセイ基礎研究所の窪谷浩主任研究員は、日本は安全保障面で弱みがあり、米国をTPPに引き戻す説得材料に乏しいことから、「FTAしか選択肢はない」との見方を示す。ただ、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉などを抱える米国にとって日米FTAの優先順位は低く、交渉の進展に疑問を投げ掛ける。

  茂木再生相は3日の閣議後会見で、「協議は日米双方がウィンウィンとなるような成果を求める。一方的に譲って国益に反する合意を行う必要はない」と強調。自由貿易の重要性や多角的貿易体制の意義を米国に訴える考えを示した。

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