「幻のコーヒー」再生の農場で探る適地適作-産地協力し気候変動対策

  • 2050年までにアラビカ種産地の約50%が生産に適さなくなる見通し
  • 生産が急減すると経済的に困る農家も、安定的な供給確保を目指す

コーヒー好きにとって気になる予測がある。気候変動の影響で高級コーヒーの原料となるアラビカ種生豆の生産に適した土地が約30年後に半減するというものだ。コーヒーの製造・販売を手掛ける国内主要メーカーのキーコーヒーは、この「2050年問題」に対処するため、インドネシアの直営農場の一角で世界各地から集めた優良なアラビカ種35品種の苗木を栽培し、同農場に適した品種を見いだす取り組みを進めている。

アラビカ種のコーヒーチェリー

Photographer: Dimas Ardian/Bloomberg

  キーコーヒーは、スラウェシ島トラジャ地方にあるパダマラン農場で、かつて希少性から「幻のコーヒー」と呼ばれたトラジャコーヒーを栽培している。標高1000メートルを超える山岳地帯の寒暖差が生み出す独特の酸味と深いこくのある味わいが特徴だ。

  同社は、第2次世界大戦の影響で長く放棄されていたこの土地を1970年代に開拓し、約40年にわたって農場を運営しているが、マーケティング本部の中野正崇・副本部長によれば、ここ十数年は雨期と乾期がはっきりせず雨量が不安定となり、3-4年に1度収穫量が少なくなる傾向が見られるようになった。こうした変化は他産地でも見られ、雨量の増加はさび病の原因となり、収穫量が減少すればリスクを恐れて生産から手を引く農家が出てくる恐れがある。

  コーヒー生豆はアラビカ種とロブスタ種に大別され、ロブスタ種が主にインスタントコーヒーの原料となるのに対し、アラビカ種は高品質レギュラーコーヒーに利用される。ロブスタ種は低地での栽培が可能で病害虫に強い一方、アラビカ種は高地で栽培され気象条件や病害虫の影響を受けやすい。

  非営利研究機関ワールド・コーヒー・リサーチ(WCR、本部・米オレゴン州)の2017年の年次報告書によると、アラビカ種の栽培に最適な年間平均気温は18-21度だが、現在生産に適した土地の54%で50年までに最も暑い月の平均最高気温が32度以上に達すると予想されている。

  生産が今後、気候変動の影響を受ける懸念がある一方で、消費は増加傾向にある。同報告書によれば、1990年代以降、世界の生豆の消費量と生産量は平均2.1%の割合で増加を続けている。消費量が年平均2%増え続ければ、2050年までに現在の生産量の約2倍の2億9800万袋(1袋=60キログラム)が必要となる見込み。しかし、生産を気候変動に適応させる取り組みを開始しなければ、50年には生産量が現在の水準を下回る可能性がある。

危機意識

  対応策を模索していたキーコーヒーは、世界各地の高品質アラビカ種を他国で栽培し、それぞれの産地の生育条件に適応する品種を探るWCRの国際品種栽培試験に16年4月、日本企業として初めて長期的な研究パートナーとして参加。インドネシア・コーヒー・カカオ研究所(ICCRI)と協力し、コロンビアやパナマなどで生産されWCR本部で培養された品種を、パダマラン農場で栽培している。

  収穫までに3年かかるため、まだ試験結果は出ていないが、茎の太さや葉の付き方の観察を通じて35品種のうち約半数がトラジャ地方の生育条件に適している可能性が出てきた。WCRのこの取り組みは12年に始まり、現在は世界26カ国で実施。17年には、通常霜害のない中米で開発された品種が霜への抵抗力があることが分かるなど成果が出始めている。

  中野氏によれば、気候変動や病害虫への耐性向上の取り組みはこれまで主に各生産国内での品種改良や研究によって行われており、異なる産地で栽培試験が実施されたり、情報が共有されたりすることはほとんどなかったという。

インドネシアのコーヒー農場

Photographer: Dimas Ardian/Bloomberg

  インドネシアでの駐在経験もある中野氏は、「生産が急減すると経済的に困る生産者も多い」と指摘。「高品質コーヒー生豆の需要が高まる一方で、収穫は天候などに左右されるため生豆価格が安定せず、生産者は振り回されている状況だ。投機や市場価格に左右されないよう農家が安定的に生豆を生産できるようにすることが目標で、結果として世界の生産者のためになると考えている」と話す。

  キーコーヒーがパダマラン農場で栽培している約5品種はアラビカ種。WCRの栽培試験でトラジャ地方に適した品種が見つかれば、商業栽培につながる可能性があり、気候変動に対処する道が開ける。

  日本は欧州連合(EU)、米国に次ぐ世界3位のコーヒー生豆輸入国。全日本コーヒー協会の西野豊秀・専務理事は「アラビカ種の生産量が減るという予測は、レギュラーコーヒーの消費が多い日本や欧米諸国にとって深刻な問題。気候変動のコーヒー生豆生産への影響については業界としても危機意識を持っている」と述べ、WCRの取り組みについて「期待している。産地の生育条件に適したものを探していく適地適作しか対処法はない」との見方を示した。

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