日本のようになりたくなかった米金融当局-賃金伸び悩みに類似点

  • 米賃金は失業率が1960年代後半の水準に低下しても上昇の勢い欠く
  • パウエル議長や黒田日銀総裁、ECBフォーラムの討論会に参加へ

The Marriner S. Eccles Federal Reserve building stands in Washington, D.C..

Photographer: Andrew Harrer/Bloomberg
Photographer: Andrew Harrer/Bloomberg

米金融当局者はかねて、日本経済が陥ったようなデフレ下の不況を避けようとしてきた。しかし、連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は今、一つの重要分野で米国が日本に多少似た姿になることを望んでいると考えられる。それは労働市場だ。

  失業率が1960年代後半以来の水準に低下し、それを容認するパウエル議長は、当時を特徴付けた賃金・物価上昇によるインフレ急加速の悪循環につながることはないと捉えているようだ。パウエル議長はむしろ、現在の日本にやや類似した展開を期待していると見受けられる。

  それは具体的には、米国を大幅に下回る失業率の下でも、賃金やインフレにそれほど上昇圧力が生じていない日本の状況を指す。

  パウエル議長は13日、今年2回目となる利上げを決めた連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見で、「率直に言って、低失業率には好ましい部分が多くあると考える」と語った。

  その一方で、米国の低失業率が賃上げ要求を後押しし、金融当局が容認不可能と見なす水準にインフレ率を押し上げれば、当局はそれに対処するための利上げを余儀なくされるリスクがあり、そうなれば9年間に及ぶ現行の景気拡大が危険にさらされかねない。

  パウエル議長は20日、欧州中央銀行(ECB)がポルトガル・シントラで開催している年次フォーラムで、ドラギECB総裁、日本銀行の黒田東彦総裁、オーストラリア準備銀行(中央銀行)のロウ総裁と共にパネル討論会に参加する。フォーラムのテーマは「先進国経済での価格・賃金設定」だ。

  労働市場の改善に伴い、米国の賃金は多少上昇してきたが、失業率の大幅低下を踏まえると賃上げの勢いがそれほど強くないことに意外感があると、パウエル議長は話す。5月の失業率は3.8%と、2009年に記録した金融危機後のピーク(10%)を大きく下回り、長期的に持続可能と当局者が推計する4.5%も割り込んでいる。

  パウエル議長は「これはちょっと謎めいている」と述べるとともに、労働市場の引き締まりを受けて賃金も上昇するだろうと付け加えた。

  FOMCが13日に公表した最新の経済予測によれば、当局者は米失業率が19年末までに3.5%に低下すると予想している。インフレ率は2%の当局目標をわずかに上回ると見込まれているが、パウエル議長は緩やかに金利を引き上げる「辛抱強い」アプローチを堅持する意向を示している。

  日本の4月の完全失業率は2.5%で、1月に記録した約25年ぶりの低水準を若干上回っただけで、有効求人倍率は1.59倍と1974年以来の高水準だった。だが、賃金の伸びはよくても緩やかな水準にとどまり、インフレ率は日銀目標の2%を大幅に下回っている。企業は基本給引き上げに慎重な姿勢のままで、将来の景気悪化の場合にもっと容易に削減できるボーナスの引き上げを選択している。

  日本の賃金伸び悩みにエコノミストはさまざまな理由を挙げており、その幾つかは米国にもわずかに共通点がある。まず日本の非正規雇用は02年以降、約40%増えた。正規雇用に比べ賃金は低く、賃上げの交渉力でも劣る。

  米国のパートタイム雇用は02年以降に約25%増えたが、フルタイム雇用が望ましいと考えている。そして日本と同様、賃上げは困難な情勢だ。

  国際通貨基金(IMF)のエコノミストは、労働移動が限られている点が日本の賃金の伸び悩みのもう1つの理由だとし、終身雇用制をその背景に指摘している。他方、米大統領経済諮問委員会(CEA)は2月21日に公表した大統領経済報告で、「労働力の地理的な移動の欠如は容易な解決策のない難問」だと論じ、一部の米国民が求職をやめてしまった理由かもしれないとの分析を示した。

  労働市場の力学でもう一つ大きな変化をもたらしているのは人口の高齢化だ。高齢化の進展は日本の方が米国よりも急ピッチだが、両国に共通の事情でもある。年長の労働者の方が賃金が高めのため、その引退に伴って平均給与は押し下げられる。

  日本の賃金とインフレの伸びがこれほどまでに低い最大の理由は恐らく、雇用者と被雇用者の双方が、状況は変わらないと信じてそのように行動している点にあるのだろう。

  日銀の黒田総裁は15日の政策決定会合後の記者会見で、日本独自の特殊要因として、企業や家計に残る一種の「デフレマインド」がインフレ押し上げに当たっての課題であるとの考えを示した。

  パウエル議長は、インフレ期待が当局の2%目標でしっかり安定し続けてそれを下回らないことが「非常に重要」だと話しており、それこそが4%を下回る失業率を容認することで、約半世紀前の「グレート・インフレーション」時代との違いを浮き彫りにしようと賭けてみる理由なのかもしれない。

原題:Powell’s Puzzling U.S. Labor Market Looks Somewhat Like Japan’s(抜粋)

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