【インサイト】日銀に薄日、周波数分析が捉えた利上げに強い設備投資

日本企業による設備投資の拡大は、今年で8年目を迎える。ブルームバーグ・エコノミクスの分析によれば、拡大の原動力は一時的なショックや在庫循環に対応する短期投資から、新施設や新技術への長期投資へ移行している。企業は構造的にも経済成長を信じ始めたともいえる。

  構造要因による国内投資の拡大は、円高時でも海外直接投資の増加傾向が止まらないのと同様、資金調達コストの調整程度の変化であれば影響を受けにくい。日本銀行にとっては、長短金利目標の引き上げへのハードルを下げる効果があるだろう。

  ブルームバーグ・エコノミクスは、日銀スタッフによる17年の調査論文で用いられた「周波数分析」を用いて、日本の実質企業設備投資の変動要因を解析した。この手法では、構造的要因による変化や長期的なトレンドから循環的要因(一時的要因、在庫循環、設備更新循環)を分離する。日本の潜在力を考える上では、構造的変化・トレンドによる設備投資により注目する必要がある。

  さまざまな要因が設備投資を変動させてきた。1980年代後半のバブル景気の際には、88年に実質企業設備投資が前年比17.4%拡大し、85年の9.2%から加速した。しかし、構造的変化・トレンドによる投資への寄与は9.3%ポイントから6.8%ポイントまで減速した。輸出頼みの一本足打法の成長に陰りがあったことを示唆している。

  85年は象徴的な年だった。9月の先進5カ国 (G5) 蔵相・中央銀行総裁会議後にドル高、円安・西独マルク安の是正の必要性を確認し、為替市場に協調介入するという共同声明(プラザ合意)が発表された。ドル円は会議前の240円台から87年末には120円台まで大幅な円高となった。日銀は当初、円高に伴う無担保コール金利の上昇を「高め放置」した後、86年から87年上旬にかけて5回の公定歩合引き下げを行った。金融緩和は、企業の在庫循環や設備更新需要に伴う設備投資を加速させた一方、構造的変化やトレンドに対応した設備投資の縮小を反転させることはできなかったようにみられる。

  最近では、実質企業設備投資は2011年から拡大を続けている。ブルームバーグ・エコノミクスによる周波数分析によれば、14年までは在庫循環や設備更新需要が拡大の主な要因だった。それ以降、主役は構造的変化・トレンドによる要因に移行している。17年に設備投資は2.9%拡大したが、うち2.5%ポイントが同要因によるものだ。

  「周波数分析」の手法を詳細に解説しよう。ノースウエスタン大学教授のクリスチアーノ・ローレンス氏とミネアポリス連銀のシニアエコノミストであるテリー・フィッツジェラルド氏の03年の共同論文で提唱された「帯域フィルター(Band Pass Filter)」という手法で、日本の企業設備投資のうち循環的要因を周期の長さごとに一時的要因(2年以下)・在庫循環(2年から5年)・投資更新循環(5年から15年)の3つに分け、国内総生産(GDP)を構成する実質企業設備投資額から抽出する。3つの循環要因を除いたものが構造的変化・トレンドに伴う企業の設備投資額となる。

  3つの循環要因は、どのように実際の出来事と一致するだろうか。例えば、一時的要因(2年以下)は1997年と2014年の消費税引き上げに伴う駆け込み需要と反動、東日本大震災や英国の欧州連合(EU)からの脱退を決める国民投票(ブレグジット)後の設備投資の下振れを捉えている。

  在庫循環(2-5年)で見れば、直近の循環ペースは3-4年程度で推移しており、GDPの在庫変動の動きと比較しても、おおむね整合的だ。また、資本財の更新投資の循環期間はセクターや設備ごとに幅があり、80年代以降長期化の傾向にあるものの、平均的には5年から15年の間に収まっている。「周波数分析」は循環要因を周期ごとにフィルタリングしたもので、厳密な因果関係を示したものではないことに留意する必要がある。

  構造要因による設備投資の変動をトレンドによる変化と厳密に区別するのは難しい。確実に言えることは、日本企業の設備投資はより持続的な要因によって拡大しているということだ。

  理由の一つとして、中国が推し進める「メイドインチャイナ2025」計画が影響している可能性がある。同計画に基づき素材や部品の中国国内の内製化を進める際、半導体製造設備や建設機械などの資本財の輸入を拡大し、一般的な部品の輸入を減少させるといった構造変化が起こりつつある。この動きが、日本企業の海外直接投資行動だけでなく国内の投資構造も変化させている可能性がある。

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JAPAN INSIGHT: Structural Capex Uptrend Is Boon for Growth, BOJ

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