日銀総裁はまだ物価上昇を信じるか-ピーターパン発言から3年

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  • 「疑った瞬間に永遠に飛べなくなってしまう」と15年6月に発言
  • 「安定した状態は抜け出すのが難しい」と米セントルイス連銀総裁

黒田日銀総裁

Photographer: Kiyoshi Ota

「飛べるかどうかを疑った瞬間に永遠に飛べなくなってしまう」。3年前にピーターパンを引用して金融政策の有用性を説いた日本銀行の黒田東彦総裁が30日、同じ日銀金融研究所主催の国際会議であいさつした。今のところ、物価上昇2%への道筋は不透明なままだ。どんなに信じても人は空を飛べない。そんな現実に直面している。

  黒田総裁は2015年6月、ピーターパンの物語にある言葉を紹介した上で、大切なことは「前向きな姿勢と確信です」と述べた。当時は13年4月の異次元緩和の開始からまだ2年。黒田総裁も「中央銀行は、さまざまな課題に直面する度に、新たな知恵を出して、その課題を克服してきました」と前向きなメッセージで講演を終えた。

  30日の講演では、多くの国で失業率が大幅に低下し実体経済が大きく改善したにも関わらず、「物価と賃金の動きは鈍い状態が続いている」と指摘。この問題は最近「失われたインフレ」などと呼ばれており、物価・賃金動向の変化の背景を解明することは「現在、喫緊の課題となっている」と語った。

  黒田総裁はさらに、先進国を中心とした金融機関の低収益性が近年、「グローバルな金融安定に対する新たな問題」となっており、金融システムの安定維持の観点からも「各国中央銀行は新たな課題に直面しつつある」と言明。3年前には言及しなかった金融緩和の副作用に触れるなど、講演内容は様変わりした。

失速

  日銀は16年1月のマイナス金利や同年9月の長短金利操作付き量的・質的金融緩和といった「新たな知恵」を出したものの、物価は目標の半分にも達していない。エネルギー価格上昇を受けて16年後半から伸び率を高めたが失速し、4月の生鮮食品を除く消費者物価指数(コアCPI)は前年比0.7%上昇と2カ月連続で鈍化した。

  日銀の2%目標達成見通しは6回先送りされ、4月に公表した物価見通しからは達成時期も削除された。就任時には2年で2%の物価目標を目指すと宣言した黒田総裁だが、目標が達成できないまま4月に再任された。

  米セントルイス連邦準備銀行のブラード総裁は29日、東京都内で記者団に「安定した状態というものは一度入ってしまうと抜け出すのが難しい。これは世界の他の国よりも、日本にとってずっと大きな問題であるように思われる」と語った。2%目標については「堅持するべきだ。これが今や国際標準だ」と忠告した。

力強さ欠く

  日本経済は輸出を原動力に好調を維持しており、雇用も堅調だ。賃金にも改善の兆しが見え始めた。ただ現時点では物価上昇には結びついていない。

  黒田総裁も物価については最近では弱気ともとれる発言を繰り返しており、22日の参院財政金融委員会では「2%の物価安定の目標に向けたモメンタム(勢い)は維持されている」としながらも、「なお力強さに欠けており、先行きについては、中長期的な予想物価上昇率の動向を中心に、下振れリスクの方が大きい」と説明した。

  30日の国際会議は「変貌する世界における中央銀行の政策・業務の実践」がテーマ。黒田総裁のほか、元インド準備銀行(中央銀行)総裁で米シカゴ大教授のラグラム・ラジャン氏も講演した。

(3、4段落に講演内容を追加します.)
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