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記者のいない通信社、ニュースはAIにお任せ-21年までの上場視野

  • JX通信社、AI駆使してSNSから第一報
  • 航空オタクが描く夢、上場の先には航空会社

2017年2月、マレーシアの空港で金正男氏が暗殺された事件は、彼が金正恩朝鮮労働党委員長の異母兄だったために、その後、激しい報道合戦に発展した。しかし日本国内で、現地のメディア情報をキャッチしてテレビより速く取り上げていたのが記者のいない通信社だったことはあまり知られていない。

  JX通信社は、人口知能(AI)や機械学習を使って、ソーシャルメディアに投稿される文章や画像から情報を選別して、自社のニュースに仕立てて記事を配信する。スタッフ24人のうち3分の2がエンジニアで、記者は一人もいない。金正男氏暗殺のときには、現地メディア報道を検知した同社のAI技術が、国内の報道機関に先んじて伝えたという。事件直後、その事実に気付いた社会学者の古市憲寿氏は「テレビはすっかり『遅い』メディアになったんだなあ」とツイッターにつぶやいた。

JX Press Corporation CEO Katsuhiro Yoneshige

JX通信社・米重氏

Source: JX Press

  08年、世界経済がリーマンショックを発端とする金融危機の連鎖で同時不況に見舞われるなかで、JX通信社は米重克洋氏(29)が立ち上げた。大学1年のときだった。起業のきっかけは「人間が何から何までやる」、「人力でガンガン動いている」メディア業界の労働集約型の体質に疑問を抱き、ビジネスチャンスと捉えたことだ。米重社長は「テーマを決めて取材し記事を書く言論の部分は人間じゃないとできない。だがストレートなニュースは限りなく自動化できる余地がある」と語る。

  例えば、事件や事故、災害が起きれば記者は取材に走り回るが、スマートフォンの普及が日本を「まさに1億総カメラマン」(テレビ朝日報道局ニュースセンター副編集長西浩一郎氏)にしたことでどんどん自動化が可能になった。同社のサービス「ファストアラート」の顧客は、主に事件や事故の検知目的で導入する報道機関だ。一方、株主には共同通信やQUICKなどのメディアが並ぶ。西副編集長は「警察や消防ですら情報を把握していない段階で覚知することもある」と話す。もう一つの事業の柱は、消費者を対象とした無料ニュースアプリ「ニュースダイジェスト」。4月に100万ダウンロードを超え、アプリ広告の売り上げは「ファストアラート」の2倍だ。

  一方、あまりに速い社会の変化はリスクにもなるもろ刃の剣だ。別のプラットホームを使うライバルは脅威になるし、ひとたびSNS利用者が減少すれば収益減につながる。さらにフェイクニュースの混入をいかに防ぐかといった問題もある。実際、16年に熊本地震が起きた際、“おりから逃げたライオンが脱走中”という動画コンテンツがSNSに拡散されたが、映像解析の結果、過去に南アフリカで撮影された動画でフェイクニュースだとAIが判断したことで事なきを得たこともあったという。

  マーケティング調査のMM総研が去年行った調査によれば、人工知能を導入している企業は米国の13.3%に対して日本は1.8%と低く、AI社会はまだ緒に就いたばかり。21年までの上場を目指して「今は報道ファースト」で突き進む米重氏だが、実は航空雑誌に寄稿するほどの航空オタクで「航空会社は30代のうちにやりたい」と、その先を見据える。

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