Photographer: Yuriko Nakao

夏の白州キャンプ場にて、ゴールドマンのバンカーが退職を決めるまで

Photographer: Yuriko Nakao

2017年の夏の夜。米ゴールドマン・サックスで2兆円に上る東芝の半導体事業売却を助言していた瓜生英敏氏(43)は、山梨県は白州のキャンプ場で久しぶりの家族との休暇を楽しんでいた。パチパチと音を立てるたき火を見つめていたとき、退職を決意した。

  今はスポットコンサルティングを提供するベンチャー、ビザスク(東京・目黒区)で最高財務責任者(CFO)を務める。瓜生氏はビジネスの専門知識を持つ人材をネット経由で紹介する同社の業務について「成長性はかなり高い」と述べ、新規株式公開(IPO)も「そう遠くない将来にできたら」と意欲的だ。計画の詳細については言及を避けた。

  ゴールドマンでは約19年間、投資銀行部門でM&A(合併・買収)助言業務などを担った。「たった一回の人生でこのままあと20年もずっと同じことをやるのはもったいないな」と退職に踏み切った。「前職では平日に家で食事をしたことはほとんどないが、今は時間がうまく合えば家でも食べるし大分普通になった」と振り返る。

  外資系投資銀行で働いていたバンカーやトレーダーが、異業種に転身する例は増えている。ドイツ銀行で外国為替営業部長を務めた大西知生氏は日本でビットコインなど仮想通貨交換業務に参入する。ゴールドマンのトレーダーだった山田隆氏は外国人に代わって和食の名店予約を請け負うビジネスを始めている。

リセット

  瓜生氏にとって、昨夏の2泊3日の家族でのキャンプは「すごく楽しかった」だけでなく、人生について考えるきっかけになったという。夜になってたき火をし、花火にはしゃぐ子供たちを見ていたとき「ぼちぼちだ」と思い、転職先を決めないまま、人生のリセットを決断した。

  瓜生氏が東芝に助言した「東芝メモリ」案件は、売却先候補も多数の大型ディール。4ー5の複数案件を同時に抱える普段と違い一点集中型で臨んでいた。このため東芝が9月に米ベインキャピタルを軸とする日米韓連合に売却することを決めた後で仕事に隙間が空いた。これがカタリストになったという。

テニスサークルで先輩後輩

  ビザスクは12年創業。青葉台にあるオフィスはガラス張り中心の明るく開かれた空間だ。これまで計約3億3000万円の資金を調達、みずほキャピタルや政府系のDBJキャピタルなどが株主に名を連ねる。瓜生氏は「社員が生き生きと働き明るい」と感じ、それが気に入って入社を決めた。

  ヘルスケアや食品、金融、メディアや教育など幅広い業界について、豊富な知見を持った約6万人の登録アドバイザーを時間単位で依頼者とマッチングするサービスを提供する。今年2月には新規性やビジネスアイデアが認められ、経済産業省などが主催する日本ベンチャー大賞の女性起業家賞を受賞した。瓜生氏は20年をめどに人員を現在の40人強から100人体制に拡大したい考えだ。  
  
  瓜生氏を誘ったのはビザスク共同創業者の端羽英子最高経営責任者(39、CEO)。東大時代同じテニスサークルに所属し、ゴールドマンでも瓜生氏の後輩という関係だった。

  瓜生氏は「大企業ではなくスタートアップでできることがある、インパクトは全然違う」と後悔はない。「知見を流動化することによって、これから日本企業が成長していく。そういうことに貢献できるなら、ゴールドマンを辞めてやることとしてはいいことだと思う」と語った。

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