「草食系投資家」秘話、挫折と澤上氏との出会い-セゾン投信中野社長

  • 「格好悪い」との指摘をきっかけに、市場で勝負する意味を自問自答
  • 15年3月期から毎年黒字、「つみたてNISA」の対象にも選定

セゾン投信の中野晴啓社長(54)がインタビュー中に突然涙をこぼし始めたのは、自身の投資信条や恩師との出会いを語ったときだ。今や日本の長期投資業界をリードする「草食系投資家」の1人にも、多くの挫折と苦労がある。

  中野氏が危険覚悟のハイリスク投資ではなく、緩やかなペースで資産を積み上げ着実な運用成績を目指す「草食系投資家」に転身するきっかけは1990年代後半に訪れた。それまで従事したジャンク債や金融派生商品(デリバティブ)取引などの必要性に疑問を持ったのだ。ITバブルが崩壊した2000年、同氏は日本の長期投資家の草分けで、さわかみ投信を創業した澤上篤人氏のような人生を歩みたいと願い始めた。目指すは、老後資産づくりを低コストで助ける投資信託会社をつくることだ。

  そんな中野氏がセゾン投信を設立したのは06年。支援を約束していた澤上氏からは、草食系への理解を社会から得る上で犠牲が伴うことも言い聞かされていた。同社の収益が初めて黒字化したのは15年3月期。以降は毎年黒字で、運用資産は昨年に2000億円を突破した。直接販売で提供する2本のファンドは、国民の資産を預貯金から投資に移行させたい安倍政権が導入した制度の一つで、今年始まった少額投資非課税制度「つみたてNISA」の対象にも選定されている。

中野社長

写真家:Bloomberg Marketsの深田志保

  ここまでの道のりには「数々の闘争があった」と言う中野氏は、バブル経済最中の1987年に明治大学商学部を卒業、西武百貨店を中核とする当時の巨大企業グループで金融部門を担うクレディセゾンに入社した。ファッションの世界で働くことを望んでいたが、金融界に身を置くことになり、3年目にはレバレッジドバイアウト関連証券への投資を担当。資産運用は楽しく、円スワップなどデリバティブ取引にも関わった。

  しかし、そんな生活が10年以上経過したころ、中野氏はある人の指摘にショックを受ける。大金を動かしてリターンを上げ、銀座を豪遊する当時の生活を「かっこいい」と思っていたのに、「それが極めて格好悪い」と言われたのだという。こうして、マーケットで勝負する仕事の社会的意義を自問自答するようになっていった。

  「今でも僕はヘッジファンドは要らないと思っています」と話す中野氏は、「そもそも資産運用っていう仕事は、何のために社会に存在しているのか」と問い掛ける。当時、40歳に近づいていた同氏は「まっとうな資産運用の仕事がしたい。残った自分のビジネス人生、そういう仕事はしたい」と一念発起、働く人の定年後を支える投信の販売に将来性を見いだす。機関投資家は毎年利益を求められるが、個人なら生涯を見据えた長期投資が可能との読みがあった。

  老後資金は預貯金ではなく、株式など資本市場への分散投資で増やせという教えは欧米では当然だが、90年代前半のバブル崩壊で資産が一気に失われた日本ではリスク性資産への投資には依然慎重。米国で世帯が保有する資産の株式・投信の割合は47%であるのに対し、日本のその割合は15%にすぎない。

  中野氏が働いていたクレディセゾンは99年、米ベアスターンズアセットマネジメントと公募投信「未来図」の共同運用を始めた。当初は順調に資金が集まったが、解約の動きも速く、半年が過ぎると未来図を販売する証券会社は消えた。証券会社主導、回転売買の日本の投信業界の現実に同氏は直面した。

インタビュー記事の原文(英文)はブルームバーグ・マーケッツ誌2・3月号に掲載

表紙アートワーク:ケルシー・ヘンダーソン(ブルームバーグ・マーケッツ)

  途方に暮れる同氏が2000年に偶然目にしたのは、スイスのプライベートバンクの在日代表を辞し、日本初の独立系投信会社を設立していた澤上氏に関する記事だった。澤上氏は当初、短期投資家と警戒し中野氏と会うことを拒んだが、度重なる中野氏のねばりで面会が実現。未来図の失敗について、証券会社を通した販売はばかげており、直接販売しか方法はないと持論を強調した。そして、自身の元を何度も訪れる中野氏に心を打たれ、「おまえが本気でやるなら、なんでも手伝ってやる」と支援を約束した。「そこから、僕と澤上さんの物語が始まる」という。

  中野氏はクレディセゾン内で投信会社設立に奔走した。2年ほどで金融庁から認可を受けたが、経営陣との対立であえなく挫折。中野氏はクレジットカード事業へ異動となり、辞職も考えるが、そんな同氏に澤上氏は「必ずまたチャンスが来るから、黙って冷たい飯食ってろ」と忍耐を求めたそうだ。澤上氏の予言は04年に現実となり、中野氏にはもう一度、同社で投信会社を設立するチャンスが巡ってきた。

  同氏はまず米投信会社バンガード・グループに支援を求め、セゾン投信設立翌年の07年にバンガードの各種インデックス・ファンドに投資する「セゾン・バンガード・グローバルバランスファンド」の運用を開始した。昨年12月末時点の資産配分状況は日本株に4%、日本国債に6%投資し、それ以外は欧米、新興国の株式や債券など。過去5年の運用成績は、競合ファンドの88%に対しアウトパフォームしている。信託報酬は0.46%(税抜)と業界平均の半分以下だ。

  同じく07年に設定した国内外運用会社の商品に投資する世界株を対象にしたファンド・オブ・ファンズ「セゾン資産形成の達人ファンド」の成績も、競合ファンドの9割に対し上回っている。

  中野氏は、自社で扱うファンドは2本で十分だとみている。毎月5000円から投資できる顧客13万人余りを混乱させないためで、急激な資金の流出入を防ぐのとコストを抑制するため、広告投資も控え、セミナーやウェブサイト、口コミでファンを増やす姿勢を貫く。中野氏と同じく草食系投資家の1人であるレオス・キャピタルワークスの藤野英人社長は、中野氏について「真面目」で「原理原則に忠実」、「それから情熱がある」と評した。

  こうした草食系投資に対し、否定的な見解を示す向きもある。昨年9月に「投資なんか、おやめなさい」と題した本を出版した経済ジャーナリストの荻原博子氏はその1人。「分からないでしょう、将来のことは」と話す同氏は日経平均が1989年12月の高値から依然4割程度低い状況を挙げ、株式相場の上昇が絶対でない以上、積立投資は「失ってよいお金でやるべきだ」という。

  預貯金なら安全との根強い考え方に対し、中野氏は日本株が上がらなければ、それは経済成長に欠ける場合であり、その状況では円が安くなるので銀行口座の資産は目減りすると説く。世界中の市場に分散投資する方が富の維持と構築のために優れていると信じてやまない中野氏は、週末もセミナーで全国を駆け巡るなど、仕事漬けの毎日を送っている。

原題:The Hedge Fund Hater Taking on the Lions of Japanese Investment(抜粋)

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