Photographer: Akio Kon/Bloomberg

「それ早く言ってよ~」、名刺共有に抵抗ある営業マンも納得の世界観

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  • 名刺データ管理のSansan、「名刺は出会い。奥深い」と寺田社長
  • ゴールドマンやトヨタ系ファンドが出資、IPOも念頭に事業拡大へ

とかくデジタル社会と言われるこの時代。しかし、情報技術(IT)系のベンチャーながら、リアルな名刺交換から始まる人間同士の出会いをことのほか大切にしている会社がある。法人向け名刺管理サービスのSansan(東京・渋谷)だ。

  名刺は実際に相手と面会した人だけが手にできる。そして名刺交換の場で何気なく交わす会話。軽く聞き流しそうな内容でも、上司や同僚にとっては喉から手が出るほどの重要情報かもしれない。いったんプラスチック製の名刺フォルダーに収まれば、それは封印されてしまう。

寺田社長

Photographer: Akio Kon/Bloomberg

  Sansanはそれを回避し武器に変える。寺田親弘社長はインタビューで「名刺を出会いの手段と捉えたとき、ビジネスの悲喜こもごもが全ての名刺の連なりに埋まっている」と語った。「世界には100億枚の名刺があり、日本では毎年、10億回交換されている。相当、奥が深い」と事業拡大に意欲的だ。

  俳優の松重豊氏らが出演し、「それさぁ早く言ってよ~」のテレビCMで知られる。スキャンや手入力でデータ化した名刺と付随情報をクラウド上で管理、分断されていた社内での人脈・情報を共有し、企業の営業活動に生かしてもらう。2007年創業の新興企業だが、伊藤忠商事経済産業省の一部など約6000社が導入している。

名刺の未来

  社名や肩書き、連絡先などをデジタル化して管理するサービスは日本国内に複数ある。しかし、Sansanでは「先日イベントで会ったA社のB課長はこんなことに興味を持っています」など、名刺に紐付けられた情報をリアルタイムで分かち合える。寺田氏は多くの企業では「社内で名刺が紙のまま死んでいる」と話す。

  17年8月にトヨタ自動車も出資する未来創生ファンドや顧客情報管理の米セールスフォース・ドットコム系ファンドから約42億円を調達。使途は国内中心に約200万のユーザーを持ちインド展開も始めた個人向け名刺交換アプリ「Eight(エイト)」事業の強化だ。同年11月にはゴールドマン・サックスも資本参加した。

Sansanのスキャナー

Photographer: Akio Kon/Bloomberg

  デジタル化の進展で、既に中国ではビジネスコンタクトに「WeChat(ウィーチャット)」が多用され、米シリコンバレーでは何らかのメッセンジャーや自社のエイトを含むSNSが名刺代わりとなっている。寺田氏は「われわれにとって名刺そのものがなくなるということは、脅威でありチャンスでもある」と語った。

青学キャンパスを眺望

  今後の資金調達について寺田氏は「資金が必要になるレベルのストラテジーを考えるのが私の役割」とし、1ー2年間隔だった過去の例も参考に、次回はこれまで以上の額を調達する可能性を示唆した。新規株式公開(IPO)も選択肢に準備はしているが、プライベートでの調達も含め事業戦略から判断するという。

  約300人が入る神宮前のオフィス。青山学院大学のキャンパスを見下ろすガラス張りの大きな部屋は、社員のデスクがあるエリアと境界なくつながり、横長のベンチがずらりと並ぶ。社長が全体会議を招集することもあるこの会議室で、パソコンを開き意見を交わす社員たち。この1年で100人増えた。

  顧客は中小企業が大半で、上場企業は1-2割程度。寺田氏は「日本には100万の企業がある。まだまだこれからだ」と語る。英語にも対応しており、シンガポール拠点などから海外事業も拡大している。蓄積したデータを人工知能(AI)が分析し「誰にどんな方法でアプローチするべきか」などを推奨する機能も開発中。「10万回の出会いをラーニングするだけでもかなりのレコメンドができる」という。

「僕はネットワーカーじゃない」

  名刺専門家の福田剛大氏はSansanの事業に関連して、企業には「自分の情報を使って手柄を立てられたくないという営業マンもいる」と分析。しかし、「こうした壁に風穴をあけられれば、個人の力を会社の力にできる」とし、情報共有が企業の営業手法を大きく変える可能性を指摘した。

  寺田氏は1999年、慶応大環境情報学部を卒業し三井物産に入社。情報産業部門に配属され01年からの米国勤務(シリコンバレー)では米国最先端ベンチャーの日本向けビジネス展開を担当した。系列セキュリティ関連会社への出向などを経て07年に5月に三井物産を退社。4人の仲間と共にSansanを創業した。

  寺田氏はインタビューの終わりに、人と人との出会いを大切にし、名刺管理で企業を支援するこのビジネスの起業について「日常的にあったピュアな自分の課題感が始まりだった」と振り返った。そして、ITベンチャーの社長ながら「自分はネットワーカーではない」と笑った。

(第7段落に背景や寺田氏のコメントを追加しました.)
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