刻まれた広島・長崎の記憶、北朝鮮脅威でも核武装にはなお拒否感

  • 日本の核保有は「世界に許されない」-広島の高校生・小林さん
  • 安倍首相は非核三原則堅持、石破元防衛相は見直しに言及

北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発を進め、6回目の核実験を実施して世界中の脅威となっている。米国内では日本や韓国が核武装に踏み切る可能性を指摘する声も出ているが、72年前の広島・長崎への原爆投下の記憶が深く刻まれた日本では核保有や配備への拒否感が根強い。

原爆ドームの前で祈る子どもたち

Photograper: The Asahi Shimbun via Getty Images

  「日本がもし核兵器を持ったら、世界のどこの国が持ってもいいという許可が下りるような状態になると思う」ー。核兵器廃絶を訴える高校生平和大使の一人として20日に外務省を訪れた小林美晴さん(17)は日本の核保有は到底考えられないとブルームバーグの取材に語った。

  広島で小学1年生の頃から平和学習で原爆被害の悲惨さを学び、祖父母も被爆者である小林さんにとって核兵器の問題は「身近な」ものだ。日本は「核兵器がどんなに恐ろしく、廃絶していかないといけないものか一番知っている国」であり、「核兵器を自ら手にすることは、世界に許されない」と訴えた。

  北朝鮮は8月と9月、日本上空を通過する弾道ミサイルを発射。日本列島を「核爆弾により海に沈められなければならない」と威嚇しており、周辺国で核武装に関する議論も起こっている。マクマスター米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は今月3日、FOXニュースの報道番組で北朝鮮に対抗して日本や韓国も核兵器を保有する可能性があると言及した。

  韓国ギャラップが9月に実施した調査では、64%が韓国が独自に核武装すべきだと回答、反対は35%だった。これに対し、日本ではFNNがミサイル通過直後の同月に行った世論調査でも、「日本が将来核兵器を保有すべきだと思うか」との質問に8割の人が「思わない」と回答した。

反核の「壁」

   米スタンフォード大学で米国のアジア外交を研究しているダン・スナイダー氏は「反核の精神は日本人の意識に深く根ざしている」と述べ、核武装への「大きな障壁」となっているとの見方を示した。

    広島市立大広島平和研究所の水本和実副所長も、日本人の反核の意識は被爆の経験を「社会として共有している」ことからくるものだと指摘。戦後の平和主義の根底にあるのは「戦争にこれ以上、巻き込まれたくないという意識」であり、「日本が核武装も含めて戦争手段に関わらないことが平和につながるという考え方が中心になっている」と述べた。

核の傘

サーロー節子さん

Photographer: Kyodo News via Getty Images

  安倍晋三首相は11月の参院本会議で非核三原則について「国是として堅持しており、これを見直すことは全く考えていない」と答弁。政府は米国製の陸上配備型イージス・システム(イージス・アショア)や航空自衛隊の戦闘機に搭載する長距離巡航ミサイルを導入して防衛力を強化していく方針だ。 

  これに対し、石破茂元防衛相は最近の講演などで、米国による核の持ち込みや核兵器を開発する技術の保有を検討すべきだと主張している。12日に出演したBSフジの番組では、核兵器を持たず、作らず、持ち込ませずとする「非核三原則」について「議論もせずではいけない」と見直しに言及した。

  一方、自民党安全保障調査会長を務める中谷元・元防衛相は19日の取材で、日本は米国の拡大抑止いわゆる「核の傘」の下にあるため「核武装する必要はない」と断言した。他国への核拡散リスクや多額の導入経費など総合的にみても「考えるべきではない」のが理由だ。
  
  中谷氏は日米同盟において米国の核抑止は保障されており、日本が核武装しなければならない状況は生まれないとの認識を示す。その上で日米同盟が「なくならないように全力で努力するのがベストの選択だ」と強調した。

プルトニウム備蓄

  専門家からは日本の核保有はほとんど戦略的な意味をなさないという指摘も出ている。米国で核抑止について研究しているジェームス・プラット氏は「北東アジアでの核配備は非常にコストがかかり、紛争が起こった場合は北朝鮮の標的になる可能性がある」と分析。こうした動きには中国が反応し、「かえって地域の緊張を悪化させる」とも指摘する。

  ただ、日本はすでに核保有国になり得る力を持っている。昨年末現在で46.9トンのプルトニウムを備蓄し、9.8トンが国内、残りは英国とフランスに保管されている。またH2Aロケットで数十の衛星の打ち上げに成功しており、ミサイル転用も可能な高度な技術を備えている。

  ネクシアル・リサーチの航空宇宙コンサルタント、ランス・ガトリング氏は、日本は広島型のウランを使用したシンプルな構造の核爆弾なら2ー3年以内、より複雑な核兵器でも10年足らずで完成させることが可能との見方を示す。

  今月10日、ノルウェーのオスロで行われた核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)へのノーベル平和賞授賞式。演説したカナダ在住の被爆者サーロー節子さんは、70年以上前の広島での体験を鮮明に語り、今も多くの被爆者が放射線の影響に苦しんでいると訴えた。その上で、「核兵器の開発は国家の偉大さが高まることを表すものではなく、国家が暗黒の縁へと堕落することを表している」と世界に警鐘を鳴らした。

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