セクハラ被害防ぐ「非常ボタン」、米国のホテルで広がるか

  • ニューヨーク市では数百軒のホテルで導入された
  • シアトルやシカゴでは条例で警報装置の従業員への提供を義務付け

A chambermaid prepares a bed in a guest room in this arranged photograph taken inside a Hotel Indigo hotel, operated by InterContinental Hotels Group Plc, in London, U.K.

Photographer: Simon Dawson

米シアトル市のダウンタウンにあるウェスティンホテルの客室係エリー・ダーさんは、裸の宿泊客から客室に入るよう言われたり、お金を渡すからマッサージしてくれと頼まれた経験がある。きれいだねと言われ背後から抱きつかれて逃げ出したこともある。

  ダーさん(60)はフィリピンからの移民だ。客室係としての経験は17年。米国で過ごした大半の期間を同じホテルで働いてきた。給料や手当が他より良かったからだ。だが毎日、心配しながら職場に出る。「お客さんは誰も信用しない」と言う。

  ウェスティンの親会社マリオット・インターナショナルのグローバルコミュニケーション担当シニアディレクター、ジェフ・フラハティー氏はダーさんの経験についてのコメントを控えたが、同社としてはハラスメントは一切容認しないと説明。「不適切な行為があったとの報告を受ければ、真剣に受け止め、適切に対処する」と述べた。

  ホテルの客室係は危険な仕事だ。米国の雇用機会均等委員会 (EEOC)はセクハラを生みやすい要因を研究。言葉の壁や雇い主と従業員の間の「権力の大きな開き」、顧客を満足させる必要性、物理的に孤立した労働環境、アルコール摂取の機会などを特定したが、これらは客室係に当てはまるものだった。

  ニューヨーク市では2011年、当時の国際通貨基金(IMF)専務理事ドミニク・ストロスカーン氏から性的暴行を受けたと客室係が訴えた。ストロスカーン氏は容疑を否定したが、起訴された。公訴は後に取り下げられ同氏は12年に客室係と和解した。同市では13年以来、労働組合のあるホテル数百軒に「非常ボタン」が取り付けらている。

  シアトル市のホテル従業員は現在、電子ホイッスルか衛星利用測位システム(GPS)付きの警報ボタン、もしくは緊急アラーム機能付きの「iPad(アイパッド)」を携行する。同市では昨年、従業員にホテル側がこういった装置を提供することを義務付ける条例が承認された。シカゴでは今年10月、市議会がこうした装置の導入義務化を全会一致で可決した。

  マリオットやヒルトン、ハイアットといった大手ホテルブランドや独立系のホテルオーナーらが加盟する業界団体AHLAは、来夏までに非常ボタンの設置を求めるシカゴの条例を称賛している。だが1年前の認識は違っていた。ブルームバーグが検証した内部文書には、労組が求める通報システムは「専門家やホテル運営側からは、問題を生むだけの措置と見なされている」と記されていた。

  AHLAは当時、シアトル市のような条例案と闘う方針も示していた。AHLAのブライアン・クロフォード副代表(行政担当)は「宿泊客がたまたまシャワーから出たところへ客室係が入ってくるなど、あらゆるシナリオが起こり得る。ハラスメントをしたと責められた顧客がどんどん増えていくようなことに、われわれは巻き込まれたくない」と語った。

  ホテルにとっては、従業員と同時に、事業へのリスクを小さくすることが課題だ。カリフォルニア州高裁では10月、客室係が同州の公平雇用住宅法(FEHA)に基づき雇用主を訴えることができるとの判断が下された。原告の女性は侵入者により性的暴行を受けたが管理職はその侵入を知っていたと主張した。この女性の雇用主パシフィック・パール・ホテル・マネジメントの弁護士は、同州の最高裁でまだ係争中だとしてコメントを控えている。

原題:Hotels Add ‘Panic Buttons’ to Protect Housekeepers From Guests(抜粋)

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