「良い会社ほど苦しい」中小企業の跡継ぎ問題、優遇税制で救済へ

  • 10年の時限措置で納税猶予制度を拡充、雇用要件を緩和
  • 団塊世代の引退迫る、現状では雇用650万人とGDP22兆円失う

An employee makes hydraulic machine parts at a Noumi Industry Co. processing plant in Moriguchi, Osaka Prefecture, Japan.

Photographer: Buddhika Weerasinghe/Bloomberg

  団塊世代の経営者の引退が急増が迫る中、政府・与党は14日にまとめる来年度税制改正大綱で、中小企業の非上場株式を受け継ぐ際の贈与税や相続税を猶予する事業承継税制を拡充する。10年の時限措置として、事業継続を条件に相続の負担を軽減し、経営者の代替わりを促す。

  自民党税制調査会の資料によると、課税の猶予対象を承継する企業の総株式の3分の2から100%に拡大し、適用後、5年間平均8割の雇用維持が必要とした従業員の雇用要件を緩和する。また、現在は承継後に会社を譲渡・解散した場合は猶予された時点の税金を全額支払うことになっているが、新税制では解散・譲渡時の企業価値に基づいて税額を再計算し、差額を減免する。

  税額は、類似上場企業の株式や純資産などから算出する株価に基づいている。安倍晋三政権下での株高を背景に試算の評価額が増え、多くの中小企業が税金を払えず廃業に追い込まれている。日本商工会議所の試算によると、政権発足時の2012年12月から16年8月までに中小企業の株価は最高約1.6倍上昇。東京商工リサーチや中小企業庁によると16年に休廃業した過去最多2万9583社のうち半数が黒字経営だった。

  金型製作の菅原精機(京都市)の3代目社長に就任した菅原尚也氏(45)は、会長を務める父親から近く経営を引き継ぐ。戦後の混乱期にでっち奉公を経て祖父が設立した会社を維持する企業理念を打ち立てるのが自分の役目だと語るが、目下の悩みは税金対策だ。多額の相続・贈与税が発生する見通しで、現行制度は「良い会社ほど苦しい」と話す。

  首相が議長を務める未来投資会議の資料によると、25年までに70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人となり、うち日本企業全体の3割にあたる127万人が後継者未定の状況だ。中小企業庁の推計によると、現状のままでは今後10年間で約650万人の雇用と約22兆円の国内総生産(GDP)が失われる。

株価上昇

  表参道相続専門税理士事務所の橘慶太代表税理士は11日の電話取材で「相続税や贈与税の負担が大きく、税金を払ってまで後継者に承継したいという人が少ない」と指摘する。第2次安倍政権発足以降の景気回復を受け、「民主党政権時代は株価が低かったために対策をしていなかったが、安倍政権下で株価が上昇して困っている」という相談も寄せられていると話した。 

  日本商工会議所が9月に実施した別の調査によると、事業承継を行う上での障害として「後継者への株式の譲渡」を挙げた人が最多の74.5%で、「自社株の評価額」が70.9%と続いた。同会議所の荒井恒一理事は安倍政権下での株価高騰の影響は大きいとし、「後継者がいても、税の問題があり、会社の体力のあるうちに辞める人が多い」と説明する。

  歯車装置の石橋製作所(福岡県直方市)の石橋和彦社長(48)も事業承継に悩む経営者の一人だ。11日の電話取材では「事業の承継は経営者として一番重たい仕事」と語り、自身も後継者のめどをつけていないと明かす。景気の先行きが見通せない中で、事業承継税制を活用する前提となる雇用の維持は難しいとの見方を示していた。

  税理士の橘氏は雇用維持の要件が「事業承継税制を使うにあたっての最大の障害となっていた。それが緩和される影響は大きい」と指摘。「今回の税制改正により、事業承継税制を使う会社が爆発的に増える」とした上で、10年間の時限立法が延長される可能性も高いとみている。

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