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「ウーバー嫌い」のタクシー王子、業界に変革迫る

  • 日本交通・川鍋会長:配車アプリや定額運賃制など矢継ぎ早の導入
  • アプリ子会社にはトヨタも出資、走行データ管理は国内企業で

「初乗り410円」、「タクシーアプリ」、「定額運賃」。世界中を席巻している米ウーバー・テクノロジーズに代表される新興配車サービスを迎え撃つ日本のタクシー業界がここ数年で矢継ぎ早に打ち出した施策だ。その背後にいるのが「タクシー王子」の異名を持つ日本交通の川鍋一朗会長(47)だ。

  創業家の3代目で幼稚舎からの生粋の慶応ボーイ。米国で経営学修士(MBA)を取得して米マッキンゼーでコンサルタントとして活躍、妻の祖父は中曽根康弘元首相という華々しい経歴を持つプリンスは業界団体の全国ハイヤー・タクシー連合会会長も務める。黒船のように押し寄せる新興配車サービスに対抗すべく、ITの積極導入など旧態依然とされる業界改革に奔走している。

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日本交通・川鍋一朗会長

Photographer: Tomohiro Ohsumi/Bloomberg

  業界をめぐる状況は厳しい。国土交通省の統計によると、2005年度を100とした15年度の国内旅客輸送量は鉄道が111、航空が102、乗り合いバスが101と増加する一方で、タクシーは68と大幅に減少した。需要が尻すぼみとなるなか、スマートフォンのアプリを使った配車サービスでは新規参入が相次いでおり市場は乱戦模様となっている。

  営業許可のない自家用車での配送サービス、いわゆる「白タク行為」が禁じられていることから13年に日本に上陸したウーバーはハイヤーの配車サービスを提供。メッセージアプリのLINEも同様のサービスを手掛けている。目的地やルートを限定してライドシェア(相乗り)を一部可能にしたサービス「ノリーナ」を展開する「ゼロ・トゥ・ワン」(横浜市)など新興企業も台頭している。

  川鍋会長は日本のタクシー業界は地場の零細が多く、特に地方では経営的に死に体の会社も増えるなど課題は多いと前置きしたうえで、自社や業界の最近の取り組みについて「タクシーを進化させようとしてやっている」と述べた。「タクシーがちゃんとしていて、ある程度リーズナブルでちゃんと使える素敵なアプリがあればみんなライドシェアをほしがらないと思う」とも話した。

アプリ子会社上場も視野

  川鍋氏が今最も注力しているのが日本交通の子会社として立ち上げた「JapanTaxi」だ。タクシーのIT化を目指す同社の配車アプリ「全国タクシー」では連携する全国のタクシー会社の計4万7000台を呼ぶことが可能。クレジットカードなどを事前に登録すれば支払い手続きを目的地到着前に済ますこともできる。ダウンロード数は約380万と配車アプリとして国内最大だ。

  ジャパンタクシーは6月、トヨタ自動車などが出資しスパークス・グループが運営する未来創生ファンドから5億円を調達した。しかし「やりたいことに対しては全然足りない」とし、来年にも「完全にベンチャーの世界観にのっとった形」で追加の資金調達を予定しているという。

  調達した資金は主にテレビCMなどアプリの認知度向上と、他言語対応や決済機能を強化するために来春の導入を目指す新型車載用タブレット端末の費用に充てる考え。川鍋氏は時期は未定とした上で、「エグジットのチャンスを投資家に与えるため」にジャパンタクシーの上場も視野に入れていることを明らかにした。

  ウーバーは13日、ソフトバンクグループなどから最大10億ドル(約1137億円)の出資提案を受け入れると発表、ソフトバンクも14日、最終的な合意はしていないものの出資を検討していることを明らかにした。中国の配車サービス滴滴出行も第一交通産業と組んで訪日中国人を対象にしたタクシー配車サービスの導入を計画している。ソフトバンクは滴滴出行の親会社にも出資している。

行動データ

  配車サービスは事業の副産物として、「誰がいつどこに行った」という個人情報にひも付けられた行動データを得ることになる。川鍋氏は「国家安全保障上、ローカルな移動のデータはローカル企業が所有権を持ってきちっと管理していかないと危ない」と考えており、そのため今後の資金調達では「日本と運命を共にしてくれるような企業」からの出資を求めているという。

  トヨタは10月、約20年ぶりとなる新型タクシー専用車両を発売。電動スライドドアを採用し、屋根が高く床がフラットなため車いすやベビーカーがそのまま乗車できるのが最大の売りだ。次世代タクシーの開発ではトヨタのエンジニアが日本交通の営業所に何十人も訪れ、デザインや機能を練ったという。

Toyota Unveils the JPN Taxi

トヨタの発表会見に出席した川鍋氏や豊田氏

Photographer: Tomohiro Ohsumi/Bloomberg

「現代の油田」

  川鍋氏は、トヨタが新しい道路や車線規制の状況などタクシーが得るさまざまな情報を使ったリアルタイム地図の作製にも関心を示していると指摘。タクシーの「物理的な移動量がお金になる」とし、自動運転時代の到来が近づくなかで路上から得る情報は「現代の油田」だと強調した。

  東京ハイヤー・タクシー協会の資料によると都内でのタクシーの月間輸送人員数は約3000万人。一方で、ブルームバーグが入手した最近のデータによると国内でのウーバーの利用回数は月約5万回と規模はまだ小さい。米国では割安なウーバーだが、日本ではハイヤーを利用するために通常のタクシーより割高なことも影響している。だが、競合関係にあることに変わりはない。

  「ちなみに、私のウーバーのアカウントはバン(凍結)されているんです」と川鍋氏は語る。同社には日本語や英語で電子メールを送り凍結解除を求めたものの返信はないという。ウーバーはアカウント凍結に関するブルームバーグの取材に対し、個人のアカウント情報については回答を控えるとコメントした。

  高い技術力を持つウーバーを否定するものではないとしながら、同社の企業文化については「EVIL(邪悪)」であり、「大嫌い」と話した。そうしたやり方では「どんなにテクノロジーやお金があっても徳は残らない」とし「ウーバーを反面教師としてハーバードのケーススタディーなどで取り上げるべき課題だ」と指摘した。

  自動車評論家の国沢光宏氏は「物価の安い日本の中でタクシーの運賃だけがめちゃくちゃ高い」と指摘する。国が運賃を規制しているほか、業界団体のロビー活動の力が大きいために何も変わらず、結果として競争力のない産業の一つになっていると話した。どんな業界でも価格競争がまず必要だとし、もう少し運賃を安くするとともに「プラスアルファの魅力を付けてほしい」と期待を示した。

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