1円セールに10円自販機、大阪商人のデフレ脱却どこ吹く風

  • 1円セールに10円自販機、売れなくなった商品を安く売る商人文化
  • もうからないことは絶対しない大阪人、安くておいしいで何が悪い
Photographer: Buddhika Weerasinghe/Bloomberg
Photographer: Buddhika Weerasinghe/Bloomberg

スーパーの1円セールに、ジュースの10円自動販売機、駅前に堂々と設置された格安切符の自販機。政府・日銀がデフレ脱却に向け悪戦苦闘を続ける中、商人の街・大阪の安売り文化は今も健在だ。

  チラシに躍る豆腐1円の文字。大阪市西成区のスーパー玉出から出てきた主婦の高尾聡美さん(55)は「週に2、3回買い物に来る。安くて助かる」と話す。1981年からこの地で商いを続ける前田託次社長(73)は「安く売らんことにはお客さんは喜んでくれへん。1円が貨幣の最低価格やから1円セールを始めた」と言う。

スーパー玉出・天神橋店

Photographer: Buddhika Weerasinghe/Bloomberg

  1円セールを契機に他のスーパーも価格競争になり、「お客さんも玉出のおかげと喜ぶ。それならどんどん出店せなあかん」と、市内中心に47店舗を展開。5年で100店舗を目指す。前田社長は「大阪は昔ながらの商人の街、価格競争の街やから、物価はなかなか簡単に上がらへん」と語る。

  総務省の小売物価統計調査によると、都道府県別の消費者物価指数(総合、全国を100とする地域差)は最も高い東京都に比べ、大阪府はほぼ全国平均と同水準で推移。食料などの寄与度が全体を押し下げている。スーパー玉出のような「激安価格」は同統計には反映されていない。

  大阪随一の繁華街、心斎橋筋商店街の前田雅久振興組合事務局長(65)は「安くてまずいではなくて、安くておいしいで、何で悪いねんという話だ」と言う。客とのやり取りの中で値引きを持ち出すのは大阪では当たり前。たこ焼きだったら1個おまけをつける。「それで固定客になるのであれば安いものだ。大阪の人はもうからないことは絶対にしない」と語る。

  日本銀行の黒田東彦総裁は物価が上がりにくい背景について、長年続いたデフレ心理が「企業や家計にかなり強く存在している」と説明するが、大阪ではデフレ脱却などどこ吹く風の商人魂が根付いている。

無駄にしない文化

  大阪中央卸売市場の一角にある2台の清涼飲料水の自販機は1本10円で1日約3000本売れる。警備員の田中啓史さん(59)は缶のウーロン茶を20個まとめ買いした。週2回はここで買って仕事仲間にお裾分けする。商品は選べないが、「この夏はお茶が多くてありがたかった」と話す。

大阪市の「10円自販機」と「おかしな自販機」

Photographer: Buddhika Weerasinghe/Bloomberg

  「大阪には無駄にしない文化が根付いている。目立ってなんぼやという文化もある。あと、おもろなかったらあかん」。自販機を運営する卸業「大阪地卵」の釜坂晃司社長(57)は、10円では利益は出ないが、宣伝効果と、賞味期限が迫った商品をさばける利点を挙げる。1000ケース(1ケース30本)を廃棄すれば運賃込みで約60万円かかるが、10円で売れば30万円の売り上げとなり利益につながる。

  10円自販機の隣には50円の「おかしな自販機」も。大阪人であればお菓子が出てくると「ピンとくるやろ」という釜坂社長は「売ってる方も買うた方もおもろいやん。念のため『ジュースは入ってません』と書いてある」とほくそ笑む。

  衛藤公洋日銀大阪支店長は「売れ残りを廃棄せず値を付けて売った方がいいという発想で、大阪の商人文化そのものだ」とみる。「商品の需給を反映して、定価で売れなくなったものを安く売っている」のであり、「単なる安値好き、デフレ志向とは違う」と分析。他の地域だったらコストをかけて捨てる商品に値段をつけて再利用している点で「すごくエコな世界でもある」との見方を示す。

大阪らしさ 

  「日本中が大阪化するかもしれない」。元日銀大阪支店長の早川英男富士通総研エグゼクティブフェローは「大阪は口コミの流通速度が圧倒的に速く、味がまずいと店はすぐつぶれる」と指摘。インターネットの影響で安くてお得な情報が瞬く間に全国に広がり、デフレがはびこる一因になっているとの見方を示した。

  そうした大阪の安売り文化に「いよいよほころびが出始めている」と警鐘を鳴らすのは大阪観光局の溝畑宏理事長(57)。「お客さんと地域は潤っても、安くて良いものを作ろうと頑張ってきた生産者や小売店が後継者不足で消えつつある」。良いものを高く売ってもうける仕組みを考えないと、「東京のようにチェーン店ばかりになり、大阪らしさを失ってしまう」と言う。

  大阪地卵の釜坂社長は目下、自販機向けの粗利の高い商品を開発中だ。自販機を増やすつもりだが、同業者との競争が激しくなっており、「もう一つ踏み込んだことをしないと生き残っていけない」と話す。プロジェクションマッピングによる映像を投影し、自販機を彩るなど人目をひく「新ネタ」も思案している。

    最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中
    LEARN MORE