有効求人倍率全国1位でも賃金は微増、福井にみるアベノミクスの限界

  • 地元経済を支える繊維や眼鏡は生産性低く、海外との価格競争に直面
  • 安倍首相はアベノミクスの成果を主張-衆院選控え増税に高まる不安

会社員の山本千代子さん(53)が働く福井県は経済統計上では理想的な地域だ。景気は拡大し、雇用は日本一の売り手市場。どの県よりも女性は働いている。しかし、山本さんの暮らしは一向に良くならない。賃金が微増にとどまる中、衆院選で聞こえてくるのは次の消費増税の使い道だ。「困りますね。出費が増えますから」と肩を落とす。

福井駅前のバス乗り場

Photographer: Shiho Fukada/Bloomberg

 山本さんは地元を代表する繊維会社「福井経編興業」で20年以上働いている。同居する義理の両親の手助けもあり、3人の子どもを育て上げたが、高齢となった両親の介護が必要になるかもしれないと考えると「お金は使えない」と言う。

  異次元緩和と積極財政で景気を押し上げ、デフレ脱却を目指すアベノミクスの鍵を握るのは労働需給の逼迫(ひっぱく)による賃上げの加速だ。しかし、伸び悩む賃金が消費と物価上昇を抑制。政府・日銀が掲げる2%物価目標の達成は遠い。

  経済財政諮問会議の民間議員を務める伊藤元重学習院大教授は、構造改革や生産性向上が日本経済の活性化には不可欠で、「永遠に賃金が上がらないという事はあり得ない」としながらも、容易ではないと指摘する。 

街頭演説をする安倍首相

Photographer: Eiji Ohashi/Bloomberg

  22日投開票の衆院選では自民党の優勢が伝えられている。安倍晋三首相は6期連続の経済成長や雇用統計の改善をアベノミクスの成果と強調し、株価も約20年ぶりの高水準で推移している。高齢化に伴い生産年齢人口が減少する中、女性の活躍促進も訴える。

  福井経済は政府のシナリオ通りに進まない現実の厳しさを示す。有効求人倍率は2.1倍と東京と並んで全国一位、失業率も1.9%と全国の2.8%を大きく下回る。昔から繊維業が盛んで集団就職で全国から女性が移住してきた土地柄で、女性の就業率も全国一位を誇る。

  しかし、中小企業が多い県内の雇用主は、賃金上げに二の足を踏む。地元経済を支える福井の繊維や鯖江の眼鏡といったものづくりは生産性が低く、人手はかかるが利益は少ない。熟練の技術が求められ、人手不足も深刻だ。加えて、中国からの安価な製品との価格競争にさらされ続けている。  

  厚生労働省の毎月勤労統計によると、福井県では賃金が2016年までの5年間で年平均1.5%増で、14年の消費増税などの物価変動を加味した実質賃金は0.5%増にとどまる。今年は共に下落傾向が続いている。 

景気拡大の実感ない

  「日本の人件費はまだまだ高い」--。山本さんが勤める福井経編興業の高木義秀専務(64)は話す。海外の安価な製品は地元の繊維業界を苦しめてきた。従業員は約100人。賃金はわずかながら上げているが、コストに跳ね返るので「基本給には慎重にならざるをえない」状況で、景気拡大の実感はないと言い切る。
 
  同社は起死回生の策として繊維技術を活用した手術用の心臓修復パッチで医療分野への進出を狙っている。21年の完成を目指し、目下開発中だ。池井戸潤氏の小説「下町ロケット2 ガウディ計画」でも取り上げられ、テレビドラマ化された。高木専務は社員のために「突破口をつくっていかないといけない」と意気込む。

広撚繊維工業の小田仁子課長

Photographer: Shiho Fukada/Bloomberg

  従業員約40人の広撚繊維工業は円安の追い風も受けて近年業績は好調で、今年は織機を8台導入した。高校新卒の基本給も少しずつ引き上げている。しかし、景気が悪くなっても一度上げた給料はなかなか下げることはできない。藤原宏一社長(59)は「社員にずっと上がると思ってもらっては困る」と話す。

  同社の小田仁子(34)生産部検査課課長は、商品の検査を目視でしている。人手は足りず「ぎりぎりでやっている」。女性の就業率は高い福井だが、小田さんのような女性管理職の割合は全国よりも低く、男女間の賃金格差は30%以上だ。

ブランド化

  国産の眼鏡フレームの大半を製造する鯖江市の牧野百男市長(75)は、人手不足を穴埋めする「外国人労働者は無視できない。それがないとものづくりは成り立たない」と語る。同市在住の外国人887人(9月現在)は人口7万弱の約1.3%。うち3分の1が発展途上国からの技能実習生だ。

鯖江市で作られる眼鏡のテンプル

Photographer: Shiho Fukada/Bloomberg

  眼鏡産業も価格競争にあえぐ。低価格志向が根強く、市場の大半は海外製品が占める中、「鯖江の眼鏡」のブランド化を進めている。福井県眼鏡協会の協会長も務める竹内光学工業の竹内良造会長(73)は、高付加価値の製品を作るには「手間暇が掛かる、それを価格に反映できるかで利益が決まるが、あまりできていない」と言う。

  機械化は進めてきたが、多種多様なデザインに対応する少量生産では限界がある。地元の眼鏡関連会社で今夏のボーナスが出せたのは約3割にとどまった。

  油のにおいが漂う2階建ての同社工場で、小野祥代さん(46)は電動ドライバー片手に細かい金属パーツの組み立てを担当している。2人の子どもを持つ小野さんは福井経編興業の山本さんと同様に消費増税を心配している。

  「共働きしないとやっていけない」と言う小野さんは、「自民党が圧勝になると消費税が上がるのなら入れたくないけど、他の党も当てにならない」と、投票先を今も思案している。

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