読むべき?リポート選別にAI、欧新規則も日本のアナリストに逆風

更新日時
  • ナウキャストはPOSで売上高予想、AIとアナリストが競合
  • 欧州のMiFID2施行で証券リサーチの費用対効果が問われる

野村アセットマネジメントの宮崎義弘シニア・ポートフォリオマネージャーの元には、毎日100ー200本、決算最盛期には500本以上のリポートが電子メールで届く。投資判断に必要な資料とはいえ「読む前に重要度を振り分けられないか」という切実な思いから、人工知能(AI)を活用し始めた。

  AIがキーワードを読み取り、企業にとってポジティブかネガティブか、その程度を点数化。要約機能もあり、ファイルを開かなくても内容が分かる。出社後4、5時間かけてリポートの山と格闘していたという宮崎氏は今では2、3時間で済む。「どれに力を入れて読むべきか決められるようになった」と言い、浮いた時間を企業への電話取材や訪問に充てている。

  メリットは時間の節約だけではない。アナリストがリポートで投資判断を「中立」としていても、点数化によって実は「ポジティブ」に傾いていることにいち早く気づくこともあり、「アナリストの心の中まで読めるようになってきた」。今後は「リポートに成果が求められ、証券会社のアナリストにとっては勝負の時代になる」と予想する。

東京証券取引所

Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

  証券・運用業界では、決算データなどを使って企業業績や財務を分析するアナリスト業務の一部を担うため、AI導入の動きが広がっている。欧州連合(EU)では来年1月から第2次金融商品市場指令「MiFID2」が施行され、日本でも証券リサーチの費用対効果が問われる可能性があり、アナリストには厳しい状況となりそうだ。

  AIがアナリストと競合する場面はリポート判読のほかにもある。東京大学発ベンチャーのナウキャストは2016年からAIを使いスーパーの販売時点情報管理(POS)データから、消費財企業の売上高予想をヘッジファンドなどに提供。人工衛星から送られてくる画像の光量データから経済活動の実態を読み取り、リアルタイムでの国内総生産(GDP)予想も提供している。

  東京大学の和泉潔教授は「100%人間だけで分析して運用することは無くなる」と予想しており、資産運用業界は「5割なのか8割なのかは分からないが、AIをツールとして使わないと勝てないと思う」と話す。

MiFID2

  さらに新ルールMiFID2がリサーチの在り方を厳しく問い直すことになる。同ルールは顧客が証券会社に支払う費用の透明性向上を目指して、リサーチ費用を分離、トレーディングに支払うコミッションと区別することを求めている。欧州で適用されるが、日本国内でも透明性に資するとして導入される可能性がある。

  リサーチ費用が明確になってくると、ユーザーの運用者にとって「読むことが必須科目となっていた証券会社のリポートが任意の選択科目になる」と、ナウキャストの辻中仁士セールスマネージャーは指摘。証券会社からのリポート購入が絞られる可能性があるとみている。同社には最近、情報サービスの価格など問い合わせが増えているという。

  MiFID2施行を見据えて、欧米の資産運用業界はリサーチに充てる予算を示し始めているが、その水準は極めて低い。米バンガード・グループは株式リサーチ費用の予算として年間500万ドル(約5億6000万円)を下回ると見積もっている。これは同社の運用額4兆4000億ドルのわずか0.0001%。610億ドル(約6兆9000億円)を運用する英ジュピター・アセット・マネジメントも、年500万ポンド(約7億5000万円)程度と想定している。

人間の出番は

  日本証券アナリスト協会によると、現在の会員数は約2万7000人に上る。人材派遣のアデコが運営するウェブマガジンは、AI時代に消えゆく資格として簿記検定や行政書士などと並び、証券アナリストを挙げている。  

  かといって運用の世界で人間の出番がなくなるわけではなさそうだ。AIを使えば、あるイベントと株価とどんな関係があるかを早く発見できるが、経験したことがないイベントや急激な変化が発生した場合は、人間の直観が求められる。

  東大の和泉教授は「100%AIは難しいと思う」と言い、人間の役割は「AIがサジェストしたものをどのストーリーに使うか判断すること。また前例のないイベントが起きたら人間の常識やひらめきに頼るしかない」と話している。

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