エルメスやグッチ、アルマーニなど欧州の高級ブランドやユニクロなどアパレル業界が販売する縫い目のない「ホールガーメント」と呼ばれるニット製品。製造を可能にしたのは島精機製作所(和歌山市)が独自に開発した横編み機だ。

  一着を丸ごと立体的に編み上げるホールガーメントは、シルエットの美しさや着心地の良さだけでなく縫製や裁断が不要というメリットもある。裁断しないために従来のニット製品で発生していた約30%の編み地の廃棄ロスをなくせるなど、同社の「ホールガーメントコンピュータ横編み機」の登場は、アパレル業界に変革をもたらした。繊維の立体化技術を生かし繊維素材の軽量自動車部品の研究開発などにも乗り出している。

島三博社長
島三博社長
Photographer: Tomohiro Ohsumi/Bloomberg

  島三博社長はインタビューで「ファッション、アパレル業界は世界で一番遅れている無駄だらけの業界」と指摘した。ホールガーメント横編み機は洋服の3Dプリンターと呼ばれることもあり、自動車や航空宇宙、医療など他業界にも応用が可能だという。他分野への「横展開の中で得られた革新的な部分をファッション業界にフィードバックして、業界を活性化する仕組みを作っていきたい」と話した。

  自動車部品向けでは、繊維素材をホールガーメント横編み機で立体的に編み上げ、硬化剤で固める製品の開発を進めている。島氏は開発する部品の具体例についてはコメントを控えたが、「丈夫で軽い素材となれば、応用範囲はものすごく広がる」と述べ、電気自動車の走行距離を伸ばすのに必要な軽量化策として、金属から繊維由来の部品への切り替えを提案する方針だと話した。

島精機のホールガーメント横編み機
島精機のホールガーメント横編み機
Photographer: Tomohiro Ohsumi/Bloomberg

  この編み機は、600以上の特許を持つ「和歌山のエジソン」として知られる創業者で島社長の父親の島正博会長が世界で初めて1995年に開発した。糸を機械にセットすると簡単なセーターであれば30分程度で編むことが可能。製品をデザインしたコンピューターと連動させて編み上げられる利便性から有名ブランドにも使われるようになり、知名度向上とともに受注が増加した。現在は受注から納品まで2-3カ月待ちの状況だという。昨年10月には、「ユニクロ」ブランドを展開するファーストリテイリングがホールガーメントの衣服を製造する島精機の子会社に出資している。

  島精機は、今期(2018年3月期)に従来型も含めた横編み機全体の販売台数1万5000台を見込んでおり、現在策定中の次期中期経営計画の最終年度21年3月期には2万台を目指している。フル生産に近づく編み機工場の生産能力を拡大するため、今年9月には100億円の第三者割当増資を実施し、旧工場の自動化や新工場の建設を進めている。

  同社の株価は16年7月以降3倍以上に上昇しており、増資後も成長期待から堅調に推移。2日の株価は前週末比2.9%高の6090円と、07年10月以来およそ10年ぶりの高値水準だった。松井証券の窪田朋一郎シニアマーケットアナリストは、堅調なアジア需要に加え、ドル高・円安による第2四半期の業績上振れ期待の高まりが株高の背景にあると述べた。

  同社の売上高の3分の2はアジアが占め、先進国の日本や欧州はそれぞれ1割程度にとどまる。人件費の安いアジアでは、縫製などの人手が必要な従来型の横編み機販売が伸びており、これが同社の業績をけん引している。最新型のホールガーメント横編み機の価格が1台あたり1250万-1800万円と、従来型の数倍に上るためだ。

   ホールガーメント横編み機の販売では、欧米や日本など消費地に近い先進国を中心に伸ばしていきたい考え。同編み機の販売台数は上期(4-9月期)でに前期(17年3月期)実績700台を超えており、通期では1500台を目指しているという。島社長は、機械化を目的に新興国に販売すると衣料品の低価格化やコモディティー化が加速しかねず「産業自体が疲弊し、自らの首を絞めることになる」と指摘。「新しい付加価値を付けるための戦略機として理解してくれる顧客だけに販売したい」と語った。

横編み機を使った工場内の光景
横編み機を使った工場内の光景
Photographer: Tomohiro Ohsumi/Bloomberg

  立花証券の島田嘉一アナリストは、アパレルメーカーにホールガーメント横編み機の採用が広がるかが今後の鍵になるとし、普及の進捗(しんちょく)が遅れれば「この会社のリスクにつながっていく」との見解を示した。いちよし経済研究所の高辻成彦アナリストは、「アパレル向けだけだと限界が来てしまう」とし、顧客層の拡大が課題だと指摘。花開き始めたのはスポーツシューズへの展開であり、「自動車部品の分野も化けたら可能性あるかもしれないが、今その可能性についてあまり期待値はない」と述べた。

  55万石の旧紀州藩の城下町で島精機が創業してから55年目の今年、長男の三博氏が創業者の正博氏から社長のバトンを受け取った。島社長は「本田宗一郎や松下幸之助のように、島精機は一人の天才発明家が引っ張ってきた会社」と話す。組織や意識の変革を全員の力で成し遂げるようにすることが自身の大きな仕事になると述べた。

  主要技術の機械やシステム分野に加え、「今後10-20年を考えると、素材や医療、化学など多方面の先端技術が必要」と考えており、世界中から開発に携わる優秀な人材が和歌山に集まることを期待している。

最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中 LEARN MORE