核戦争より生計が心配-対北制裁措置に苦しむ中国ラストベルト地帯

  • 中国吉林省琿春市で先月、抗議活動があった-政府の政策を直接批判
  • 中国政府は対北制裁実施に伴う国内的なコストも考慮する必要

北朝鮮との国境沿いの中国の住民にとって気掛かりなのは、核戦争の可能性ではない。家族を養えるかどうかだ。

  中国吉林省延辺朝鮮族自治州にある琿春(Hunchun)市には約23万人が住む。北朝鮮とロシアとの国境に接する同市で先月、抗議活動が起きた。国連安全保障理事会が北朝鮮産の海産物などの禁輸措置を決めた後のことだ。多く卸問屋が閉店し、荷造り・配送業者や運転手、レストラン経営者といった中朝貿易で生計を立てている住民への打撃となっている。
  

先月抗議行動が起こった海産物通り

出典:Bloomberg Businessweek経由

  抗議活動のあった通りでまだ店を開けているリウ・クアンホアさん(41)は「多くの人々が今、失業している。北朝鮮政府に対するはずの制裁が中朝の一般市民に影響を与えている」と話した。

  製鉄や炭鉱といった重工業の衰退に苦しむ東北部は中国のラストベルト地帯とも称され、その東端の都市や町は米国が主導して進める対北朝鮮制裁措置の巻き添えとなりつつある。習近平国家主席にとって、失業による社会不安のリスクは慎重に対応しなければならない問題だ。来月には共産党最高指導部の一部入れ替えがある5年に一度の共産党大会が北京で開催される。

 

  堅調な経済成長を持続させる力は、一党体制下での共産党政権の正統性を担保する。中国が北朝鮮の核開発抑制でその経済的影響力を行使しなければ、貿易戦争も辞さないとトランプ米大統領は示唆しているものの、中国政府は対北制裁実施に伴う国内的なコストも考慮する必要がある。

  今月の取材時、吉林省に隣接する遼寧省の省都、瀋陽の工業団地では多くの工場が閉鎖されていた。遼寧社会科学院で国境問題を研究しているリウ・チャオ氏は「国境貿易が失われれば、東北部の工業経済の復活を目指す中国の戦略計画が不安定化する可能性がある。国際問題がこの計画の妨げになることは中央政府は容認できない。東北部の安定維持は政府にとって極めて重要だ」と指摘した。

顧客を待つ海産物卸売業者

出典:Bloomberg Businessweek経由

  グローバル政策カーネギー清華センター(北京)のチャオ・トン研究員は、国境地帯の地元当局が以前は中央政府の指示に従いながら、地元経済を守るというバランスを維持していたが、「今は中央政府がより強硬な姿勢を示し、地方経済の犠牲もいとわない決意だ。地方は中央に従わなければならないだろう」と述べた。

  北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長はミサイル発射や核実験を強行。これを受けトランプ大統領が繰り返す北朝鮮に対する軍事力行使も選択肢だとの発言に、中朝国境沿いの住民はそれほど心配しているようには見えない。中朝国境を流れる鴨緑江に接する丹東市で地元醸造の白酒を販売しているファン・ホシアンさん(37)は、「ここは平和な所だ。子供の頃からそうだったし、戦争もなかった」と話した。

  琿春の朝鮮レストランオーナー、ピアオ・チョンチャさん(59)は金委員長がミサイルを中国に向けることはないと信じている。「北朝鮮が対決しようとしているのは米国であって中国ではない。北朝鮮を数分で破壊してしまうかもしれない中国に対し、北朝鮮はあえて何もしないだろう」と語った。

中国語、韓国語、ロシア語で書かれた看板を掲げる閉鎖された海産物卸売店

出典:Bloomberg Businessweek経由

  中国で小規模な抗議活動はそれほど珍しくないが、琿春での抗議行動は中国政府の外交政策を直接批判したという点で目立った。ソーシャルメディアに出回った写真には、貨物の国境越えを求め、政府が中国国民に打撃を与えていると主張する横断幕が写っている。

  琿春の抗議活動があった通りで店を続けるリウさんは、ロシアからの海産物輸入にシフトしていると教えてくれた。周りの店舗の多くは閉まったままだ。「地元当局ができることは何もない。最初にそれが分かった時は怒りを覚えたが、怒っていてもしかたがない」。

原題:North Korea Sanctions Hurt Another Victim: China’s Rust Belt (1)(抜粋)

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