日銀金利コントロールに潜む円高リスク、日米の金利差縮小で露呈

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  • 長短金利操作下での予想インフレ率低下で実質金利は上昇
  • 日米の実質金利差の縮小と円高圧力の悪循環も-野村AM
Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

米国の金利低下を受け、日本銀行が金利コントロールをしている日本との格差が縮小し円高が進んでいる。円高は予想インフレ率の低下を招き、実質金利を上昇させることから円高がさらに加速するとの懸念も浮上している。

  米10年国債利回りは今週、2%割れに肉薄した。日本国債との利回り格差は2.03ポイントと、昨年11月の米大統領選で大規模な景気刺激策を掲げたトランプ氏が勝利する前の水準に縮小。円相場は1ドル=108円台と年初来の高値圏で推移している

  円高進行は市場の予想インフレ率の低下を招くため、名目金利から同指標を差し引いた実質金利が上昇。米国などとの実質金利差が縮小し、さらなる円高圧力となる恐れがある。

  野村アセットマネジメントの榊茂樹チーフストラテジストは、金利コントロール策は「円高に対しては危うい面がある。名目長期金利をほぼ固定しているので、円高で期待インフレ率が下がると実質金利が上がってしまう」と指摘。「日米の実質金利差が縮小し、さらに円高圧力が高まる悪循環に陥りかねない」とみる。

  黒田東彦日銀総裁は異次元緩和の導入当初から一貫して、消費や投資の活性化につながる実質金利の低下を重視。巨額の国債購入で名目金利を押し下げるとともに、2%の物価目標の達成まで緩和を続けるとの意思表明で予想インフレ率の押し上げを図ってきた。昨年9月には、異次元緩和は主に実質金利の低下により経済・物価の好転をもたらしたと総括し、新たに導入を決めた長短金利操作も実質金利低下の効果を追求する枠組みだとした。

「本音では為替を念頭に」

  ただ、市場の予想インフレ率は昨年12月に0.628%まで高まったが、今週は約11カ月ぶりに0.3%を割り込んだ。10年債利回りから同指標を差し引いた実質金利は足元でマイナス0.3%弱と昨年末のマイナス0.56%から、むしろ上昇傾向にある。

  みずほ証券の丹治倫敦シニア債券ストラテジストは「日本の物価は原油と為替で説明できてしまう。原油の大幅な変動がない中、市場の予想インフレ率は為替との連動性が高い」と指摘。黒田緩和は「本音では為替を念頭に置いている。対ドルで110円前後は上出来だが、円高が大幅に進んだら実質金利を口実に緩和的な措置もあり得る」と読む。  

  日銀は7月に公表した経済・物価見通しで「予想物価上昇率は弱含みの局面が続いている」と説明。予想インフレ率の推計には物価連動債やインフレスワップのほか、企業の物価見通しや消費動向調査などが用いられる。SMBC日興証券の丸山義正チーフマーケットエコノミストは、家計の予想インフレ率は13年末に3%超まで高まったが、今夏には2%弱と異次元緩和前とほぼ同水準にとどまったと試算する。

  日本の実質金利が上昇傾向にある一方、米国では昨年12月に0.71%まで高まった後、トランプ政権への期待剥落で足元は0.24%に低下。日米の格差は昨年12月の約1.3%ポイントから約0.5%ポイントに縮まった。野村AMの榊氏は、日銀の誘導目標引き下げは銀行や生保・年金への悪影響を考えると現実的ではないと指摘。できるのは10年債利回りのマイナス0.1%程度までの低下を容認することくらいだとみる。

  日銀は国債利回りの上下動を抑える手段として、金利上昇に対しては購入金額と回数の増加に加え、あらかじめ指定した水準で無制限に買い入れる指し値オペや、期間を10年まで延長できる固定金利資金供給オペを持つ。指し値オペは2月と7月に実際に発動され、債券相場の下落に歯止めを掛けた。一方、金利低下に対しては買い入れの減額しか有効な手がないとみられている。

  三菱UFJモルガン・スタンレー証券の稲留克俊シニア債券ストラテジストは「金利上昇は指し値オペで止められると分かった」半面、低下は「減額しても止まらないことはある。究極的に売りオペしかなく、現実的でない」と指摘。買い入れ下限金利の設定も可能だが、「ベーシススワップを使える海外勢には関係ない。金利低下を止められないようなことは物理的に起こり得る」とみている。

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