水素を生協トラックで宅配、国内初-日立、丸紅など実証開始

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  • 太陽光発電の電力で製造した水素を配達-燃料電池向けに供給
  • LPガス利用地域に照準、「クリーンでコスト面でも戦える」:日立

日立製作所丸紅などは8月、二酸化炭素(CO2)を排出しないクリーンなエネルギーとして注目される水素を、水素吸蔵合金カセットに貯蔵して家庭にトラックで配達するという新たな供給方法の構築に向けた実証事業を開始した。高圧での圧縮や冷却による液化をせず既存のトラックを使った物流網の活用で供給コストを低減し、家庭での水素利用拡大を目指す。

  両社がみやぎ生活協同組合、宮城県富谷市と共同で取り組むこの実証事業では、太陽光発電設備で発電した電力を使って水を電気分解し水素に変換してカセットに貯蔵。生協が販売する食料品などと共にトラックで輸送する。これを燃料電池に取り付けて発電し、発電時に発生する熱で温水もつくる。環境省によると、太陽光発電の電力で製造した水素を既存の物流インフラを利用して宅配するのは全国初の試み。

  家庭での水素利用では、2009年に都市ガスやLPガスから水素を取り出して発電する「エネファーム」が発売され、累計普及台数は今年20万台を突破した。エネファームの利用は大半が導管網が整備された都市ガスの供給地域。日本LPガス協会の統計によると現在は都市ガス供給世帯が2700万世帯、LPガスは2400万世帯と依然として約47%を占めている。今回の方法では都市ガス導管網が整備されていないLPガス利用地域での水素利用の拡大を狙っている。

  カセットに利用するのは冷却や加圧をすると水素を吸収し、加熱や減圧すると水素を放出する性質を持った水素吸蔵合金。水素の運搬では高圧で圧縮して体積を減らすことが一般的だが、圧縮には一定のエネルギーが必要。引火しやすい水素を合金に吸蔵させれば常圧で安定的に貯蔵・運搬ができ、輸送コストの削減が可能になる。

  日立の産業プロセス本部・担当本部長(水素事業担当)の後藤田龍介氏は、危険物ではないタイプの「水素吸蔵合金を利用するので誰でも取り扱え普及性がある」と話した。ボンベに詰めて専門業者が宅配するLPガスの供給と比べると「このモデルはクリーンでコスト面でも戦える」との見解を示した。

初期コスト低減が課題

  今回の実証事業では、日立がシステムの設計や主要機器の調達、据え付けのほか、全体の運用を管理し、丸紅が経済性などを分析する。燃料電池は非常時電源として災害時用に受注生産されているブラザー工業の製品を利用。みやぎ生協が募集する家庭3軒と、新設の児童クラブ1カ所のほか、生協のスーパー1店舗に設置する。

  発電出力は家庭と児童クラブが700ワット、店舗は5キロワットで、夜間など消費量が少ない時間帯なら電力需要に対応できる見込みだ。今後2年半にわたり、太陽光の発電量に対してどれだけの水素が得られるか、水素をどの程度の頻度で輸送する必要があるかなどのデータを収集し検証する。

  生協の既存の物流システムを利用するため輸送費はほとんどかからないものの、初期費用として約1000万円の装置代が必要になり、150万円程度のエネファームと比較すると割高。丸紅エネルギー関連事業部・新規事業チーム長の藤本洋一氏は、このモデルの採用が広がり「装置の生産台数が増えて初期コストをなるべく下げていくことが課題」と話した。

  東日本大震災で大きな被害を受けた宮城県は、環境負荷の低減や災害対応能力の強化、産業振興に向け15年に「みやぎ水素エネルギー利活用推進ビジョン」を策定した。富谷市は仙台市のベッドタウンとして1970年代から人口が増加し、昨年10月に市制移行。県のビジョンに基づき水素社会の構築を目指している。

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