世界最優秀の女性シェフが語る異色の物語-スロベニアの丘で大成功

Photographer: Richard Vines/Bloomberg

アナ・ロス氏はシェフとして、異色中の異色の存在だろう。

  女性シェフの同氏は料理人になりたいと思ったことが一度もなかったほか、調理を学んだこともない。それなのに今年、「世界のベストレストラン50」が選ぶ最優秀女性シェフ賞を受賞した。

メルボルンの授賞式でのアナ・ロス氏

写真家:Mal Fairclough / AFP via Getty Images

  ロス氏はシェフを務めるスロベニアのレストラン「ヒシャ・フランコ」でのインタビューで、「私は美食の伝統がない社会の出身で、そこでは料理は名誉な仕事に思われていない」と語った。はるばるオーストラリアから客がやってきたり、ヒシャ・フランコでの食事に何カ月も前からの予約が必要になる日が来たりするとは驚きだった。

  10代の時期はスポーツウーマンで、スキーは全国でも有数の腕前だったが、「いつも2位で終わったので、17歳のときにやめた」という。その後はイタリアのトリエステなどで外交を学び、ブリュッセルで欧州委員会の職を得た。だが、そこで外交の道に進むことを断念し、レストラン業を試す決断を下した。  

  恋に落ちたのだ。夫となった恋人の両親がヒシャ・フランコのオーナーで、彼らは引退すると決めていた。そして、2000年。ロス氏はソムリエである夫のワルターとともに、仕事を継ぐことを決意した。夫は食べることが好きで、2人は欧州中を旅して有名レストランで食事した。

  ここで一つ問題が起きた。ヒシャ・フランコに戻ってみると、昔ながらのスロベニア料理が気に入らなかった。2人は話し合い、ロス氏がキッチンを担当することになった。現在44歳の同氏は「最初の5年間は学びの連続で、本を読んだり、会議に行ったり、いろいろ試して苦闘しました。泳ぎ方を知らないのに水に投げ込まれたら、どんな状況が分かるでしょう」と振り返った。

マスとグリーンピース、生アーモンド、イチゴ、ハコベの一品

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  ヒシャ・フランコはソカの丘に位置し、レストランの裏のスロープではハーブや野菜が育つ。メニューは6品コースで85ユーロ(約1万1000円)、11品コースが120ユーロ。季節ごとに料理を変えるスタイルで、現代的な調理法に凝るよりも食材を重視し、味つけは大胆だ。4月5日に豪メルボルンで最優秀女性シェフ賞をロス氏に授与した世界のベストレストラン50によれば、ヒシャ・フランコは世界のレストラン番付で69位

出典:Netflix

  スロベニアは近隣のイタリアやオーストリア、ハンガリーやクロアチアの影響を受けるものの、美食で有名な国ではない。ではロス氏はどうやって、ヒシャ・フランコの存在を世界に知らしめたのか。答えはネットフリックス。ドキュメンタリー番組「シェフのテーブル」が16年5月27日に同氏を取り上げると、「その日の夕方までには予約システムがパンクし、ウェブサイトの閲覧者が1日当たり200人から1万人に急増した」と同氏は語る。

  そして、最優秀女性シェフ賞受賞が続いた。この賞については、女性だけに絞った選考はばかげているとの批判もある。

 

  ロス氏が受賞を拒否しなかった理由はこうだ。「男社会の中で、女性の活躍が大変なのは非常に明らか。女性には母や妻、恋人、主婦としての役目があり、それを1日14ー16時間働く中に何とか組み込もうとする。世界のベストシェフには素晴らしい妻がいて、子供やプライベートの面倒をみてもらえるから、100%仕事に集中できる。自宅に帰れば、恐らく誰かが食事を作って、おしゃべりの相手もしてくれる。この2つの別々の世界を比べることは決してできないはずよ」。

トリッパと豆、カモのソース、チーズ、ハーブ、キノコの一品

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Hiša Franko, Staro selo 1, 5222 Kobarid, Slovenia; +386 5 389 41 20 or http://www.hisafranko.com/en/

原題:The Unlikely Story of the World’s Best Female Chef(抜粋)

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