超円高は再来せず、突出した魅力欠ける日本には杞憂-加藤元財務官

  • 円高振れても、1980年代や90年代のような持続にはならない
  • 最近のドル安傾向は「IMFの見解と整合的だ」

米欧の金融正常化がやや遅れ気味だとの観測を受けた円高圧力は当面優勢かもしれないが、長続きはしない-。元財務官の加藤隆俊氏は、日本経済の国際的な立ち位置を踏まえれば、1ドル=70円台などといった超円高の再来は考えにくいと言う。

  足元の円高進行は、米連邦準備制度理事会(FRB)の追加利上げや欧州中央銀行(ECB)による量的緩和の縮小決定が、北朝鮮問題やトランプ米政権の不安定さを受けて先延ばしになるとの見方が背景にあると、加藤氏は28日のインタビューで指摘。ただ、いずれ「ユーロ、ドルとも通貨高要因になる」のは変わらないと語った。

加藤隆俊氏

Photographer: Toshiyuki Aizawa/Bloomberg *** Local Caption *** Takatoshi Kato

  加藤氏によれば、円の長期的な強弱を占うには、米欧や中国などと比べて「日本経済のパフォーマンスが圧倒するほど良いか」や「日本の金融市場が抜きん出て魅力的な投資機会を提供できるか」が重要。「双方とも考えにくいので、局面によっては円高に振れても、1980年代や90年代のように持続することにはならない」とみている。

  北朝鮮が早朝に日本上空を通過する弾道ミサイルを発射した29日。外国為替市場では、地政学リスクへの警戒から円が急伸し、対ドルでは一時108円27銭と4月に付けた年初来高値まで14銭に迫った。

  国際通貨基金(IMF)の副専務理事を務めた加藤氏は、IMFが7月の調査リポートでドルが昨年時点で10-20%過大評価されている一方、ユーロと円はおおむねファンダメンタルズ(経済の基礎的諸条件)を反映した水準だとの見解を示したと指摘。最近のドル安傾向は「IMFの見解と整合的だ」と述べた。

  IMFは通貨の水準評価に際し、「国・地域ごとの人口構成や生産性の伸びなどに基づいて経常収支の中期的な適正水準を計算し、実際のデータと突き合わせて」判断しているとし、日本やドイツのように高齢化が急速に進む国では「将来の経常赤字化の可能性を勘案し、今のうちに黒字を稼いでおくことがある程度は許容される」と語った。 

  加藤氏は円相場が1995年に当時の戦後最高値1ドル=79円75銭を付けてから2カ月後の同年6月、財務官に就任。榊原英資国際金融局長らと主要7カ国(G7)共同声明や日銀の利下げ、協調介入などの円高是正策を相次ぎ打ち出し、相場は同年9月に100円の大台へ戻した。

外貨準備比率

  IMFの外貨準備に関する統計によると、通貨構成が判明している分に占める円の比率は3月末に約4.6%と02年末以来の水準に上昇した。一方、ユーロは09年9月末に過去最高の28%を付けた後はECBのマイナス金利と量的緩和を背景に低下。15年末に19%と約14年ぶりの水準に下げた後も、同水準付近での推移が続いている。

  加藤氏は、ユーロ退潮の一番の原因は「ギリシャ債務危機で、昨年はBrexit(英国の欧州連合からの離脱)や域内でのポピュリズム台頭もあった。ユーロという仕組み自体が分解しかねないとの懸念が影響した」と説明。「これからは良好な域内経済と政治リスクの大幅な低下を受け、ユーロの比率は上がっていく」と予想している。

  中国の人民元については「SDR(IMFの特別引き出し権)の構成通貨入りはしたが、資本取引の自由化がまだだし、ある日突然、制度が変わる」とし、「保有割合を積極的に増やしていく動きにはならない」と読む。円については「日本国債は通貨のベーシススワップも含めるとプラスの利回りになる上、経済が安定しているので、消去法的に選ばれる面がある」と言う。

  現在は国際金融情報センターの理事長を務める加藤氏は、財務官として日本銀行の黒田東彦総裁の2代先輩に当たる。黒田総裁の異次元緩和はデフレ脱却や需給ギャップの改善に貢献した半面、利ざや縮小による金融機関の仲介機能低下や運用機会の減少、国債・株式市場の流動性低下を招いたと指摘。将来的に出口に向かう際の日銀財務の健全性問題も「円の信認に関わる大リスクシナリオだ」とみる。

  「日銀はもう国債発行残高の4割を保有している。円の信認を保つためにも、青天井で買い入れを続けるわけにはいかない。これからの金融政策運営はかなり難しくなる。どこかの段階で今の枠組みの軌道修正を図っていくだろう」と言う。来年4月の次期総裁人事を巡っては、「黒田総裁が続投するにしても、新しい人になるにしても、決して容易ではない。よほどの知恵者でないと無理だ」と語った。

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