「ナイス、ナイス!」「追いかけろ!」。仲間で声を掛け合い、時折歓声が上がる。スポーツの試合のようだが選手たちの顔はパソコン画面の反射で青白く浮かび上がり、手はせわしなくマウスを操作・クリックしている。エレクトロニック・スポーツ(eスポーツ、競技ゲーム)大会での一コマだ。

  7月1日、ある競技会が東京・秋葉原の専用施設で開かれた。eスポーツで生計を立てるプロチームで今回優勝した「リバレント」に所属する万丈将貴氏(21)は対戦前、「今回は賞金も出るので優勝して活動費用にしたい」と声を弾ませた。対戦ソフトは6人チームが各々キャラクターに扮してオンラインで他チームと陣取り合戦する「オーバーウォッチ」だ。

7月に秋葉原で行われたAOCのeスポーツ大会
7月に秋葉原で行われたAOCのeスポーツ大会
Photographer: Akio Kon/Bloomberg

  競技会には観客を含め計約200人が集まった。参加者は年間何億円も稼ぐスター選手になることを夢見る若者がほとんど。しかし、ゲーム用モニターなどを製造する台湾メーカー「AOC」主催による同競技会の優勝賞金は1人当たり5万円(6人計で30万円)。同200万ドル(約2.2億円)以上の大会もざらな海外に比べ少額だ。

  万丈さんのチームは計9人。都内の寮で共同生活をしながら多い日は練習として13時間ほどゲームをする。毎日オンラインで他チームとの練習試合もこなし、午前1時、2時ごろにやっとメニューが終了するハードな日々だ。万丈さんは「練習したことがしっかり成果として出る瞬間がうれしい」と、やりがいを語る。

アジア大会で競技種目に

  すでに世界ではeスポーツが定着しつつある。北米プロバスケットボールリーグNBAの30チーム中、NYニックスなど17チームがeスポーツに参入済み。サッカーの英マンチェスターシティなどもチームを所有する。米カリフォルニア大学アーバイン校は選手に奨学金を出すなどeスポーツを支援、中国では大学の履修科目として認められている。

今月アメリカ・シアトルで開かれた「Dota 2」世界大会のステージ
今月アメリカ・シアトルで開かれた「Dota 2」世界大会のステージ
Source: Valve Corp.

  こうした中、アジアオリンピック評議会(OCA)は4月、アジア大会でのeスポーツ競技について、中国・アリババグループの支援を得て2018年のジャカルタ大会で公開種目に、22年の杭州大会ではメダル種目に採用すると発表。日本(愛知・名古屋)開催は26年の予定で、選手育成や環境整備の必要性も高まってきた。

  日本eスポーツ協会の筧誠一郎事務局長によれば、現在、関連3団体が「18年に選手を派遣できるよう話し合いを進めている」という。調査会社アクティベートの予測では、世界のeスポーツ関連収益は20年までに50億ドル(約5500億円)と英サッカープレミアリーグに匹敵する規模に成長する。日本市場は中国、米国に次ぎ3番目との試算もある。

  「アジア大会の正式種目採用はうれしいの一言。自分が携わってきたゲーム業界が世界で認められた一つの証明でもある」。ゲーム機のボタンを1秒間に「16連射」できる奥義で80年代にカリスマ的人気を誇った「高橋名人」こと高橋利幸氏(58)は歓迎する。しかし、日本のeスポーツ選手の置かれた現状は厳しい。

景品表示法

  秋葉原の大会で優勝したリバレント運営担当、佐竹康晴氏によると、万丈氏らの給与は月給制で「なんとか生活できる程度」。日本では賞金の出る大会が少なく、海外遠征は費用がかさみ苦労が多いという。佐竹氏は、万丈氏らの対戦を見守りながら「選手にいい生活をさせたい。スターにしてやりたい」と願っている。

秋葉原での競技会には約200人が集まった
秋葉原での競技会には約200人が集まった
Photographer: Akio Kon/Bloomberg

  日本の競技会で賞金がなかったり少額な背景の一つに法制度上の問題がある。現在主流となっているゲーム会社主催の大会賞金はソフトの販売促進とみなされ、景品表示法により最大で商品代金の20倍、つまり10万円程度が上限という解釈が一般的だ。昨年9月に消費者庁が見解を公表し、業界に自主規制が広まった。

  ゲーム雑誌ファミ通などを手掛けるGzブレインの浜村弘一社長は、「日本ではゲームをなりわいとすることができず、結果的にスター選手やそれを宣伝する人が生まれない。非常に大きな問題だ」と指摘。「海外ではライブエンターテイメントとしてゲームをしない人も含めて産業が構成されており、その差は大きい」という。

  ソニー・インタラクティブエンタテインメントは「いまは法にのっとって大会をやるしかないが、参加動機の一つが賞金ならば、実現に向けて努力したい」(日本・アジア統括の盛田厚氏)と賞金額の将来的な引き上げに前向きな姿勢を見せる。

  任天堂の広報担当者は、同社ではeスポーツには大きな可能性があるとみており、賞金はないもののゲーム大会の開催などで普及を後押ししていると述べた。

「高橋名人」も応援

  ただ、子供も対象に含む娯楽の一つであるゲームには教育上の問題もつきまとう。大阪府教育庁・市町村教育室・小中学校課の芳野和宏・主任指導主事は「ゲームを夜中までやることで生活が崩れ、不登校や学力低下に必ず関係していると思われる」と指摘。こうした問題を改善するための指導は各学校で行っていると述べた。

「高橋名人」こと高橋利幸氏
「高橋名人」こと高橋利幸氏
Photographer: Tomohiro Ohsumi/Bloomberg

  高橋氏は「日本にはゲームを楽しむ土台がある。eスポーツの大会ということではなくても、新製品の試遊などと組み合わせたゲームイベントという意味では、幕張メッセのような大きな会場での開催実績を積んできた」と、これまでの業界の動きを評価している。

  「50歳超えて、今は12連射ぐらいしかできない。僕は若い人が出てくるまでの道案内でいいかな」と高橋氏。業界団体の役員を兼ねる同氏は、「賞金200万円と10万円では盛り上がりがまったく違う」と述べ、環境が整えば、景品表示法の運用改善などを働き掛けていきたいと意欲を見せた。

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