【コラム】先進国中銀を悩ます低インフレの「悪魔」-エラリアン

低インフレが持続するローフレーションに多くの人々が頭を抱えている。米連邦公開市場委員会(FOMC)と欧州中央銀行(ECB)政策委員会の最新の議事要旨ではいずれも、原因を解明しようとする様子と、これまでのところその成果が上がっていない実態が浮き彫りとなった。

  こうした状況は金融政策決定を複雑化させるとともに、学識者らが提案している一連の制度的な解決策の意義を損なうことになる。そして事態に変化が生じるまで、各国・地域の中央銀行は金融政策の目的について、あまりにも長期にわたって過度の緩和を維持することに伴う将来の金融の安定性や成長に対する意図せぬ帰結も含め、一段と総合的に考察する必要がありそうだ。

  最近の物価統計から浮かび上がるのは次の4点だ。まず、インフレ率は異例の低水準で長期間推移している。次に、これは主に先進国における現象だ。3番目に、各国・地域の中銀による超緩和策や多額の流動性投入が長期化しても、インフレ加速の反応が見られない。最後に特に米国の場合、これは顕著な雇用創出と時期的に重なり、失業率とインフレ率との関係を説明する「フィリップス曲線」のフラット化につながっている。

  エコノミストの一部は打開策として、多くの中銀で採用している2%の物価目標の引き上げを提唱。このほか、ある年のインフレ目標が未達となれば、翌年に一段と高めのインフレ率を目指すことで埋め合わせようとする物価水準目標の導入を中銀に呼び掛ける声もある。このようの提案は一部の人々に魅力的に映るかもしれないが運用は困難であり、複数の構造的な要因がインフレを抑制しているとすればなおさらだ。

  積極的な金融政策を講じても2%のインフレ目標が未達のままである現状を踏まえれば、目標を引き上げればそれを達成できるのか、明白と言うには程遠い。物価水準目標を巡っても、前年の未達分を翌年に埋め合わせるため、中銀がさらに高めのインフレ加速を目指した場合、政治システムがどう反応するかは誰にもはっきり分からない。

  実際、政策効果の波及経路がどのように変化してきたか理解を深められるようになるまで、政策アプローチの変更が一層大きな付随的被害や意図せぬ帰結をもたらすだけではないと、保証するものは何もない。既に米国とユーロ圏では、緩和的な金融政策アプローチが金融のボラティリティー(変動性)を過度に抑制したり、広範な資産価格をファンダメンタルズ(経済の基礎的諸条件)で正当化されるよりも過大に押し上げたりし、ノンバンクによる行き過ぎたリスクテークを助長している可能性といったリスクにも取り組む必要がある。

  金融政策策定の指針とすべきなのは、まだ正しく理解されていない低インフレへの過剰な関心ではなく、力強い雇用の創出や金融情勢、経済の全般的な健全性だろう。低インフレの「悪魔」は本物であり、米国のケースでは、年内のもう1回の利上げを含め、金融政策の緩やかな正常化の次の一歩を当局に思いとどまらせる公算が大きいと、市場は現在受け止めている。持続的な低インフレの原因と帰結を理解するにはさらなる作業が必要とされるが、セントラルバンカーはそこに至るまで、成長や繁栄の展望を損なう将来的な金融の不安定性を招くよりも、なじみ深い「悪魔」と付き合っていくのが賢明かもしれない。

(このコラムの内容は必ずしもブルームバーグ・エル・ピー編集部の意見を反映するものではありません)

原題:The Lowflation Demon Vexing Central Banks: Mohamed A. El-Erian(抜粋) 
  

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