トヨタ自動車が環境技術などで業務提携を検討してきたマツダと資本提携にまで踏み込む合意を発表した今月4日、両社の共同記者会見で真っ先に飛び出した質問は、それぞれ500億円の株式を持ち合う意味についてだった。

  トヨタの豊田章男社長は両社の関係を結婚に例え、2年間の検討作業を通じて「車が持つ喜びを共有し、刺激し合える仲間と確信した」ため資本提携に至ったと回答。互いの自主独立性を尊重しつつも、「切磋琢磨しながら両社が持続性を持って協力関係を構築することを目指した」と説明した。マツダの小飼雅道社長も「中長期的な提携、継続的な提携という形に持って行くことが必要と判断した」と語った。

今月4日、会見に臨む豊田社長と小飼社長
今月4日、会見に臨む豊田社長と小飼社長
Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

  両社に限らず、こうした企業側の説明に一部投資家は納得がいかない。コーポレートガバナンス(企業統治)改革として合理性のない政策保有株を減らすよう政府が促し、日本の事業会社による株式の持ち合い解消は進んできたものの、そのペースは不十分だとブルームバーグが取材した投資家は語った。経営や取引先との関係安定を優先しがちな企業に「株主ファースト」姿勢への転換が求められている。

  国内の大手機関投資家の一角、日興アセットマネジメントの中野次朗株式運用部長は「事業会社の持ち合い株の減少速度はまだ遅い」と話す。企業間で提携に至る場合でも、株式を持ち合う必要性は「全くない。持ち合うことによるメリットは企業側が言うほどない」と述べた。

  電気自動車(EV)や自動運転など新技術の急速な普及が見込まれる自動車業界では、メーカー同士の資本面を含めた関係強化が相次いでいる。国内最大手のトヨタはダイハツ工業を完全子会社化したほか、SUBARU(スバル)や日野自動車、いすゞ自動車にもトヨタの資本が入っている。仏ルノーと連合を組む日産自動車も昨年、三菱自動車の約34%の株式を取得して傘下に収めた。

  ブルームバーグの調べによると、トヨタは金融機関を除く事業会社としては上場企業の株式を最も多く保有。トヨタの純投資目的以外の保有は17年3月期に187社と前の期から4社減った半面、住友金属鉱山株は従来比で17%買い増した。戦略的関係を強化するとし、住友鉱も1月にトヨタ株を追加取得した。

持ち合う必要性

  株持ち合いの目的について、トヨタ広報部の喜多亜貴子氏は同社と出資先が「対等、独立した関係の中で、良好な関係を構築し、今後の協業を進化させるため」と説明。「長期保有を前提とし、政策保有株式としてガバナンスを徹底していく」ともコメント。保有株式は「業務上の必要性と投資に見合った事業メリット・シナジーの観点から」適宜見直していると付け加えた。

  野村証券によると、企業の持ち合い株比率は下がってきている。16年度の上場企業全体(保険会社除く)の同比率は前年度比0.4ポイント低下の9.9%と過去最低を更新。事業会社に絞っても0.4ポイント低下して5.7%となった。だが、国際的な新銀行規制への対応でリスク資産の圧縮を迫られた銀行と比べれば見劣りがする。銀行の同比率は4%と、20年前から12.7ポイント下がったが、事業会社の低下幅は6.7ポイントにとどまった。

  同証の西山賢吾シニアストラテジストは「企業側は株主が提携先となれば、お互いに緊張感を持ち、シナジーも生まれてくるのではないかと考えている」と指摘した上で、「本当にそうならば、株主資本利益率(ROE)などが高くなっていかないといけない。投資家にとってはリターンが上がってこないと困る」と述べた。

  持ち合いでROEが改善することはないと同調するのは、京セラにKDDI株の売却を少なくとも15年から求めているヘッジファンド、オアシス・マネジメントのセス・フィッシャー最高投資責任者(CIO)だ。同氏は株を持ち合う企業について、「ROEや経営の改善を目指してはいない。現状を維持するだけだ」と手厳しい。京セラがKDDI株の「13%を保有する必要性はない。われわれは引き続き、この問題に関わっていく」と電話インタビューで話した。 

  京セラの広報担当、吉川英里氏は16年3月期にKDDI株を一部放出した同社が17年3月期に売却した事実はないとした上で、「開示しているガバナンス報告書に記載している以上のものはコメントできない」と述べた。

株主総会でも表面化

  上場会社の指針「コーポレートガバナンス・コード」は株主に対する平等性確保を求め、株式を政策保有する場合は方針を開示すべきだとしている。安倍政権が6月に閣議決定した「未来投資戦略2017」も保有方針の分かりやすい開示と合理性のない保有株の放出を促した。2月に富士通富士電機は持ち合い縮小を決断したが、コーポレートガバナンスの17年白書によると、持ち合い株を保有しないことを前提とする企業は217社にすぎず、保有を前提とする1942社を大きく下回る。

  投資家のいら立ちは6月の株主総会でも表面化した。アクティビスト(物言う株主)ファンドとして知られるストラテジックキャピタルは、空調設備会社の新日本空調に対し政策保有株の売却を提案。同社が保有目的として挙げる関係維持や取引拡大の因果関係は不明で、保有株を売却して新規ビジネス開発や買収・合併(M&A)などに資金を充てるべきだと主張した。この提案は今年の株主総会で11%の賛成を得たが、否決。ストラテジックは、繊維商社の蝶理などにも持ち合い株の売却提案を行っている。

  日興アセットの中野氏は、資本の空洞化や効率性低下、取引の固定化など株式持ち合いの問題点を挙げ、「少数株主が不利益を被る。議決権行使もなれ合いになりかねない」と指摘。企業は「なぜ持ち合いを解消する必要があるのか、理解していない」と批判した。

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