「スマホではない世界には戻れない」人手不足で介護にもIT化の波

  • 非製造業のソフトウエア投資2.4兆円、09年以来の規模へ-日銀短観
  • 経済再生を促す、日本にとってチャンス-メリルリンチ日本証券

介護付きホーム「アズハイム練馬ガーデン」(東京都練馬区)で働く南弘貴さん(26)は、手のひらのスマートフォン1台で、入居者の24時間の状況を把握する。入居者が寝ているのか起きているのかが瞬時に分かり、介護記録の入力や閲覧も可能だ。

  IT(情報通信)化により記録の手間が大幅に削減された。負担が減った分、高齢者の世話やふれあいに時間を使うことができ、入居者の満足や職員のやる気にもつながっている。

携帯電話に表示される入居者の様子。

Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

  南さんが7年前に介護業界に入った時には全く想像さえしなかったことだ。以前勤務していたホームでは紙に手書きで事務作業をしていた。「スマホではない世界にはもう戻れない」と南さんはいう。

  人口減少が進む中、人手不足がバブル期並みに深刻化しており、介護や小売りなど労働集約的な業種を中心に企業は省力化投資を活発化させている。日本銀行の企業短期経済観測調査(短観、6月調査)によると、非製造業のソフトウエア投資17年度計画は2.4兆円となり、2009年以来の大きさとなる見込み。

  UBS証券のジェームズ・マルコム日本担当チーフエコノミストは、人手不足に苦しむ非製造業によるソフトウェア投資は劇的に伸びてきており、長年の懸案だった設備投資の加速を手助けするだろうと述べた。「設備投資の増加は生産性の上昇をもたらし、賃金の上昇や消費へとつながる」とし、今後の日本経済にとって「鍵となる」と語った。

  アズハイム練馬ガーデンでは、ベッドマットの下に体動を感知するセンサーが敷かれており、「寝ている」「ベッドを離れている」といった状態や心拍数などが瞬時にスマホ画面に表示される。食事や排せつなどの状況もスマホで入力でき、過去の記録も見ることができる。

運動する介護付きホーム「アズハイム練馬ガーデン」のスタッフと入居者。

Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

  システムを先行導入した他施設の場合、記録の記入や安否確認などに要する時間の短縮により1日当たり17時間、スタッフ約2人分の1日の労働時間削減につながった。

  施設を運営するアズパートナーズ(東京都千代田区)の植村健志社長は、業界では人が人を介護するという考え方が根強く、IT化に対して拒否感があるとした上で、「介護の仕事は極めて労働集約型と言われており、労働人口は増えないので生産性を上げていかないといけない」と指摘した。

  同社は首都圏を中心に介護付きホーム15拠点を展開しており、2020年までに約3億円を投資して、すべての拠点でシステムを導入する。植村社長は導入した場合、「離職も減り、自然と採用人数も減らすことができる」と述べた。

6期連続プラス成長

  設備投資が経済を下支えする構図は徐々に生まれてきている。4ー6月期の実質国内総生産(GDP、速報値)では、設備投資は2.4%増となり、個人消費や公共投資の増加とあわせ、リーマンショック前の2006年4ー6月期以来11年ぶりとなる6期連続のプラス成長を内需が主導した。

  メリルリンチ日本証券の3月のリポートによると、日本のIT化投資は、今後、最大で年率9%伸びると予想している。同リポートは富士通や大塚商会、トレンドマイクロといったIT関連銘柄は恩恵を受けるだろうとしている。

  日本の生産性は他の先進諸国と比べて遅れており、投資余地も大きい。日本生産性本部によると、15年の日本の時間当たり労働生産性は、44.8ドル(4718円/購買力平価換算)で経済協力開発機構(OECD)加盟35カ国中19位。

  製造業の95年以降の生産性上昇率平均値は3.3%と、先進7カ国(G7)で最も高くなっている一方で、卸小売・飲食宿泊業は0.2%減と、イタリアと並び最下位となった。製造業ほど国際競争にさらされていないサービス産業で業務の効率化やIT化が遅れている。

  身近なコンビニでも省人化投資の動きが出ている。ローソンは昨年12月、パナソニックと共同で大阪・守口市の店舗で完全自動セルフレジ機「レジロボ」の実証実験を行った。

  客自身がバーコードを読み込んだ商品を専用かごに入れ、かごごと専用レジに設置するだけで自動的に精算と袋詰めをするシステムで、店舗業務の省力化につながる。2月には、商品のバーコードの読み取りが必要ない電子タグ(RFID)の実証実験を実施した。

  ローソン広報担当の李明氏は「技術が進歩しており、将来的に少子高齢化が進むので、店舗での生産効率を高める必要性がある。レジロボなどのような効率化を高める設備を導入して、長期的な観点で戦略的に取り組んでいる」と述べた。

  メリルリンチ日本証券のデバリエいづみ主席エコノミストは、人手不足は日本のサービス産業に投資を始めさせ、経済再生を促す機会となるだろうと指摘。「これは日本にとって最大のチャンスだと思う」と述べた。

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