【インサイト】円を金に変える黒田日銀の錬金術-安全通貨需要が上昇

日本銀行の非伝統的な金融政策を巡る試みは、予想外の副産物ー円の純粋な安全資産化ーを生んだかもしれない。日銀によってゼロ%近傍に操作された円金利と高まる円の安全通貨需要によって、投資家は円と金を同類として扱いつつあるように見える。経済の基礎的条件より地政学リスクと海外金利に為替が大きく振られる状況は、日本経済にとって必ずしも好ましくない。危機時の円高は、日銀のインフレ目標の達成をさらに困難にさせる側面もある。今後も地政学リスクが高まったり、米国金融政策の利上げペースへの思惑が振れたりするたびに、円と金価格の相関は強まる可能性が高い。

  • トランプ米大統領の核・ミサイル実験を繰り返す北朝鮮に対する「炎と怒り」発言が、円高・金価格の上昇の引き金となったように、危機時の安全通貨(資産)としての円買い・金買いの傾向が市場で強く意識されるようになっている。
  • 円と金価格のドルベースでの日次収益率の相関係数は、昨年6月の英国のEU離脱(ブレグジット)を問う国民投票以来上昇、足元では0.8に達しており、歴史的にみても高い水準にある。
  • この背景には、円に対する避難通貨需要が高まったこと、日本銀行の長短金利操作政策導入によって円金利がゼロ%近傍に誘導されたことで、米国の金利変化に対する円の為替レートへの影響が、保有利子を生まない金と同様の条件になったことがあると推察される。
  • 円の「避難通貨」指数(注)は、先行きの不確実性が高まった際(米国S&P500株式指数のボラティリティ指数である恐怖指数VIXの上昇時)に通貨高となる安全(避難)通貨の性質を円がドルに対し2007年以降、獲得したことを示している。
  • 英国EU離脱投票以来、金も同様の傾向を持ち、トランプ氏が米大統領選に勝利した直後にこの傾向はピークに達した。
  • 過去6カ月間、VIXが10を割り込み、過去の最低水準に低下する中、同指数の示す安全通貨の傾向は緩やかに低下したが、米国と北朝鮮の緊張が高まりVIXが16まで急上昇する中、安全通貨としての円買いの傾向は再び喚起された。
  • 「危機時の買い」の性質に加えて、米国金利の変化に対する変化も円と金価格でシンクロしつつある。
  • 避難通貨指数を推計したモデルを用いて、日米2年物国債の金利差の為替レートに対する影響と米国2年物国債の金利変化の金価格に対する影響をみると、1%ポイントの金利変化に対し、円は対ドルで12%の円安、金価格は15%の下落となる。昨年6月のブレグジット前には、それぞれ、4%と10%だった。
  • 危機時の円買いの巻き戻しの動きや、米連銀が着実に利上げサイクル入りする際には、対ドルでの円安が、輸入価格の上昇を通じて物価目標達成のための支援となる。しかし、通貨が日本の経済動向から離れ貴金属のような値動きをする状況は、リスクオフ時に物価や成長のパスが日銀の想定通りに進まないリスクを内包している。

(注)避難通貨指数は、米国の恐怖指数と日米間の国債2年物の金利差、2年-10年のスプレッドの変化(金の場合は無利子を仮定)を用いて、両通貨の交換レートの日次変化率に対して250営業日ごとのローリング回帰分析を行うことによって算出される。

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JAPAN INSIGHT: Turning Yen to Gold, Kuroda Risks Reflation Plan

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