米国最後の野球グラブメーカー、「メイド・イン・アメリカ」死守

小さなれんが造りの工場は、そこにあることが場違いな感じがする。フィリピンかベトナム、もしかすると中国にあるかのような建物だ。米テキサス州の中心部にあるのは似つかわしくない。

テキサス州ノコナにあるノコナの工場

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  他の多くの物品同様、野球グラブももはやほとんど米国で作られていない。製造場所は1960年代にアジアに移り戻ってきていない。野球は米国人のお気に入りの娯楽だが、野球ファンにとって最初に手にしたグラブほど個人的に大切な物はあまりない。グラブの匂いや感触、子供のころの夏の思い出が詰まっている。しかし、大半のグラブは数千マイルも離れた場所で、メジャーリーグの試合のチケットを購入する金銭的余裕のない人々によって縫製されている。

  ある企業は例外だ。ノコナはダラス郊外の人口約3000人の小さな町、ノコナでグラブを作っている。同社は大恐慌以降、カウボーイが使用するブーツとむちを製造していた長い歴史を持つ。家畜用飼料販売店の隣にある同社の工場では、「最後の米国製野球グラブ」の製造現場を見学したい人のために5ドル(約550円)でツアーを用意している。従業員が生地を仕立て、針で穴にひもを通し、ハンマーでたたいてくぼみの形を整える様子を見学することができる。皮革には米国旗が縫い付けられているが、それは、同社ではビジネス上の理由からではないという。

  ノコナのグラブ検査担当者で見学者の案内を担当するカーラ・イヤーギン氏は「メイド・イン・アメリカというのは、われわれが自分の国を信じていることを意味する。この野球グラブには愛情が込められている。ここで作っているからだ」と語る。

  ノコナ製グラブの値段は、ディスカウントストアで販売されている外国製と比較して25倍に達することもある。それは、ノコナの製品にプレミアムが付くことを反映しているが、同社、あるいはトランプ米大統領にとってなお深刻な課題があることを示している。

野球グラブを縫製する従業員

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  「米国で製造すること」はトランプ大統領にとって非常に重要だ。同大統領は7月に1週間にわたり米国の製造業を称賛する数々のイベントを開催。7月17日を「メイド・イン・アメリカ・デー」にすると宣言した。

  「米国の製造業を復活させることは、われわれの富だけではなく誇りを取り戻すことにつながる」と同大統領は述べた。

  1926年創業のノコナで野球グラブの製造を始めたのはライス大学の野球選手だったロバーツ・ストレイ氏だ。野球が始まった初期には、グラブを使うのは男らしくないと考えられていた。骨折は日常茶飯事だった。最初に大量生産されたグラブには詰め物はほとんど入っておらず、指を入れるところもなかった。20年代と30年代に各社は親指と人さし指の間にウェブ(網)のあるグラブを製造し始めた。

グラブの形を整える従業員

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  60年代のアジアへの製造場所のシフトでノコナは廃業に追い込まれそうになった。2010年に倒産したが、フェニックスを拠点とするフットボールグラブメーカーが同社の株式の過半数を購入し、製造を続けた。同社は最近、部分的に製造された高級牛革のグラブを中国から輸入し始めた。グラブの98%は依然としてノコナの工場で製造されている。

  ノコナの工場でのグラブ作りは約40の工程から成り、4時間かかることもある。グラブ一つ一つに込められた職人技が値段に反映すると同社は説明する。米スポーツ用品メーカー、ローリングスはさまざまな価格のグラブを販売しており、高価なものもあるが、9インチ(約23センチメートル)の子供用ならば8ドルを切る製品もある。ノコナの同じサイズのミットの値段は220ドルで、プロモデルは最高500ドルだ。

  ノコナのグラブ出荷数は年間約4万個と、米国で販売される620万個のほんの一部だ。同社の工場の従業員は約35人。ロバーツ・ストレイ氏の孫で現在副社長を務めるロブ・ストレイ氏は、非上場企業である同社の売上高は公表しない方針だ。「当社が将来ナイキのようになるかと聞かれれば、ノーだ」。しかし、利益は出ているという。トランプ政権による国内製造業への支援を歓迎していると語る。

完成したグラブ

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  メジャーリーグとの契約でローリングスやウィルソン、ミズノなど大手ブランドと競合するのも難しい。一部の企業は選手に費用を支払って自社のグラブを使ってもらっている。ノコナにはスーパースターのファンがいる。テキサス州出身で米野球殿堂入りしているノーラン・ライアン選手だ。この選手が初めて使ったグラブがノコナ製で、同社の広告にも登場している。しかし、現在トップレベルの選手で契約しているのは十数人にとどまる。

  ノコナはなぜ海外に進出しないのだろうか。「私は変わり者だからだ。この方法しか知らない」とストレイ氏は述べた。

原題:Made in America: The Last Baseball-Glove Maker Refuses to Die(抜粋)

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