積水ハウスが起債した劣後公募債が人気化した。普通社債(SB)より弁済順位が劣るため表面利率(クーポン)が高く、日本銀行のマイナス金利政策で運用難に直面している投資家のこうしたハイブリッド債への需要は強い。

  クーポンはミッドスワップ(MS)+70ベーシスポイント(bp、bp=0.01%)で当初5年は0.81%。銀行劣後債に比べたリスクウエート(RW)の低さも好感された積水ハウス債は、発行額を当初の1000億円程度から1200億円に増やした。それでも希望額が購入できなかったとの不満を漏らす投資家が確認された。債券格付けは格付投資情報センター(R&I)がA、日本格付研究所(JCR)がA+。

  このハイブリッド債は50%の資本性が認められ、格付け会社は調達額の半分のみを負債とみなすことができる。積水ハウスが格下げリスクの軽減を狙ったように、発行体も一定の条件を満たせばハイブリッド債による資金調達のメリットがある。財務上の格付け対策は増資が一般的だが株式希薄化を伴う。ハイブリッド債は巨額の資金調達でも格下げリスクを軽減できる上、株式希薄化を回避できる。

  ある機関投資家は同格のシングルA格の5年債が7月以降0.1%半ば-0.2%程度であると指摘、低金利環境下で実質5年債の0.81%は投資せざるを得ないと話した。別の投資家は銀行劣後債のRW250%に対して事業債で格付けがそのまま反映される積水ハウスのRWは50%で投資妙味が極めて高いと話した。運用に窮する複数の投資家からは、今後は事業会社からの劣後債が増えることを望む声が聞かれた。
 
  実際にある証券会社の引き受け関係者は、国内でハイブリッド債発行の検討に入っている企業が複数あることを明らかにしている。ただ積水ハウス債についてはある地方銀行の債券運用担当者が、せめて0.9%以上を期待していたと仕上がりの物足りなさに不満を漏らす声も出ていた。

ポット方式

  日本の社債市場では、投資家情報を保護するため、主幹事は発行体に投資家名や購入希望金額を伝えないのが普通だが、今回の起債では、発行体と主幹事が大口機関投資家の情報を共有する「ポット方式」が採用された。欧米の社債市場では同方式が主流だ。

  事務主幹事を務めた三菱UFJモルガン・スタンレー証券の投資銀行本部共同デット・キャピタル・マーケット部長の諏訪一氏は、ポット方式について「日本の社債市場の課題となっている透明性の向上に有効であり、販売状況の共有によってプライシングの信認も高まる」と説明した。

銘柄概要

  積水ハウスのハイブリッド債は年限60年でノンコール(NC)5だ。正式な最終償還年限は60年とされているが、5年後にはコール(繰り上げ償還)が可能となる。繰り上げ償還をしない場合、スプレッドが100bp引き上げられる、ステップアップと呼ばれる仕組みで、マーケットでは繰り上げ償還が当然行われる商品として認識されている。

  米ウッドサイドホームズを約530億円で2月に買収した積水ハウスは、4月末の有利子負債が6748億円と1月末に比べて37%増加した。企業の財務健全性を示す指標の1つの負債資本倍率は0.62倍と、第4次中期経営計画(2017-19年)で掲げる0.5倍程度を上回っている。今回の調達資金は18年4月までに償還を迎えるSBや借入金などの返済資金に充てる予定だ。

  積水ハウスの楠正吉・広報部長は「2月の買収案件も含めて総合的な資金ニーズを考慮し、年度初め頃から劣後債の検討を始めていた」と述べた。7月10日に正式に起債をアナウンスして具体的に動き出し、発行額を1000億円程度として商品設計などの説明を行い投資家の具体的な需要や希望水準を探った。

  20日からは参考水準としてMS+70bp程度-80bp台半ばを提示。需要調査は旺盛な需要を受けてレンジの下限で着地。楠部長は「当初は1000億円程度を念頭に置いていたが、需要が積み上がるに応じて増額を決断した」として、8月7日に発行額を200億円増やした。

  主幹事によると、需要調査の初日から実際に札は入れないが前向きに購入を検討する投資家からを含めると約4000億円の潜在需要が確認されたという。最終的に5000億円弱の札が集まり、中央投資家と地方投資家の比率は約6対4になったという。
  
  需要調査のレンジ推移は以下の通り(かっこ内は発行額:単位は億円)。

60年NC5
7月10-19日サウンディング(1000程度)
7月20-21日ソフトヒアリング
  24-28日  MS+70bp-85bp
7月31日-8月3日    MS+70bp-80bp
8月4日MS+70bp-75bp
8月7日MS+70bp(1200)

 
  購入投資家層は以下の通り。

中央投資家地方投資家
60年NC5生保、損保、都銀等、信託、投信・投資顧問、系統上部、中央公的地銀、系統下部、諸法人


事業会社も

  国内社債市場の劣後公募債の発行は銀行などの金融機関が大半を占めていた。「バーゼル3」を含めて金融機関に対する規制強化の流れのなかで、一定の自己資本比率の維持を求められる金融機関は、自己資本への算入が認められている劣後債で規制基準を満たしてきた。

  事業法人の劣後債は09年の東芝1800億円や11年のサントリーホールディングス総額217億円などがあったが、いずれも私募債だった。15年6月に三菱商事が日本市場で初めて資本性が認められた劣後債を公募形式で発行、幅広い投資家へアクセスすることで安定的な継続発行を目指した。16年にはソフトバンクグループなどが発行、17年8月に積水ハウス債が登場した。欧州では一般的な事業会社による劣後債が日本でも徐々に増え始めている。

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