円相場は対ドルで、早ければ来月にも100円程度へ急騰する可能性がある-。そのきっかけは、米国の政治的な混乱や金融政策見通しの揺らぎだが、底流にはドル相場が歴史的な規模の下落局面に入りつつある中で、円がまだ割安な水準に放置され投機的な売りも膨らんでいることがあると、運用資産が約44兆円に上る野村アセットマネジメントは指摘する。

  野村AMの榊茂樹チーフストラテジストは2日のインタビューで、ドルの総合的な強さを内外の物価格差を考慮して算出した実質実効為替レートを例に挙げて、1985年と2002年に続き、今年初めから大きな波動の3度目の下落局面に入りつつあると説明した。過去の例では「いったんドル安局面に入ると相当の年数にわたって続く。最初は主要国、その後は新興国の通貨がドルに対して上昇することが多い」と話した。

  ドル売りの受け皿になる可能性のある通貨については、「経常収支の黒字が大きい国・地域のうち、中国の人民元や韓国ウォンの実質実効為替レートは歴史的に高い水準にある一方、ユーロや円はかなり低い」と指摘。「ユーロの割安感は最近の上昇でやや薄れているが、円は主要通貨でいま最も割安感が強い」ため、内外金利差などの円安要因にもかかわらず、「どこかで円高になるリスク」が高まっていると読む。

  ユーロは先週、1ユーロ=1.1910ドルと2015年1月以来の高値を記録した。一方、円は対ドルで108円-114円程度の一進一退から抜け出せない状態が約5カ月間続いている。榊氏はドル・円の長期的な適正水準を測る購買力平価で見ると「100円前後、95円から100円程度だ」と指摘。過去にはこの水準を超えた円高が「しばしば」起きており、先行き米国で利上げ打ち止め観測が浮上すれば、90円程度も「あり得ない話ではない」とみる。

  国際決済銀行(BIS)の統計によれば、ドルの実質実効為替レートは6月に113.81。トランプ米大統領が就任した1月に付けた約13年半ぶり高値118.93から下げたが、2000年以降の平均の109.01を上回ったままだ。ユーロは92.33と15年4月に付けた15年ぶり安値86.88から上昇基調をたどっている。平均は98.74だ。一方、円は76.76で、15年6月に付けた1972年以来の安値67.86から反発したが、なお平均の94.82には距離がある。

  円は長期的に見た割安さが際立っている上、投機的な売り越し残高も足元で急速に拡大している。榊氏は売越高が膨張する過程でも円相場は横ばい圏に踏みとどまっていたと指摘。「蓄積された円ショートが何らかのきっかけで巻き戻されると、かなり急激な円高になり、100円程度まで割と簡単に上昇してしまうリスクもある」と読む。円高の到来時期も「これだけ蓄積すると、案外早いかもしれない」とみる。

  米商品先物取引委員会(CFTC)の統計では、ヘッジファンドや大口投機家によるユーロの買越幅は11年5月以来となる9万1321枚。昨年11月初めから23万枚近く買い越し方向に動いた。榊氏は「ユーロは年末にかけて1.20-1.25ドル程度まで上昇し得るが、やや頭が重くなる可能性がある」と予想。一方、円の売越幅は先月18日時点で12万6919枚と約3年半ぶりの高水準。3カ月足らずで10万枚超も増えた。

  こうしたポジションの蓄積が崩れるトリガーは何か。榊氏は「その時々で何になるか分からない」としながらも、ドル安が加速する「一つのリスクは9月ころにある」と読む。9月は米金融当局が追加利上げの是非や約4.5兆ドルに上るバランスシートの縮小方針を決めるとみられている上、ムニューシン米財務長官は政府債務の上限を引き上げないと同月29日に資金が底をつくと上下両院に訴えていると指摘した。

ムニューシン米財務長官
ムニューシン米財務長官
Photographer: Andrew Harrer/Bloomberg

  米国が政治的な混迷の中で追加の利上げをすれば「インフレ圧力が高まっていないのに大丈夫かとの懸念が広がる」可能性がある一方、利上げやバランスシート縮小の決定を先送りすれば、ハト派化したとして「それ自体がドル安要因になりかねない」と、榊氏はみている。

  ドル安の受け皿としてユーロなどに後れをとっていた円が買われ始めた場合、日本の当局が円高懸念を訴えても国際的な理解を得るのは難しいだろうと分析。完全失業率は約24年ぶりの水準に低下するなど景気は堅調さを維持している。

  榊氏によれば、円高対策として日本銀行ができることは限られる。金利コントロール策で日銀当座預金の一部に課すマイナス金利や10年債利回りの誘導目標を引き下げたり、国債買い入れ額を増やすのは、現実問題としては非常に難しく、「せいぜいできること」は、10年債利回りで「ゼロ%程度」の事実上の下限であるマイナス0.1%程度までの範囲内で抑制するくらいだと読む。

  榊氏は、国内勢の外債買い越しが続いている背景について、日本と米欧との金融政策見通しの格差から円安基調になるとの見方が背後にあると指摘。それでも円安が進まないのは、顧客に円建ての支払い義務を持つため、「機関投資家の外債投資はほとんどがヘッジ付き」だからだと説明した。

最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中 LEARN MORE