地中海から広がる「静かな革命」-ミニマル建築の目標は生活の質向上

  • インテリアとエクステリアの融合目指すホリスティックアプローチ
  • 宇宙船のような家は斬新さの追求ではなく必要性が生み出した

2004年、スペインは空前の巨大建築ブームに沸いていた。ユーロ圏の金利の低い巨額融資が橋やオペラハウス、市民センターといった公共建造物に投じられていた。大方の建築家が受注を目指す中で、バレンシア生まれのフラン・シルベストレ氏は違っていた。

  建築界のノーベル賞とも言われるプリツカー賞を受賞したアルベロ・シザ氏の下でポルトガルで修行したシルベストレ氏は、地中海沿いの故郷に戻り、幾つかの住宅を手掛けた。白い外観の美しい小さな家だ。

マドリードの「アルミニウムハウス」

Courtesy of Fran Silvestre Arquitectos

  シルベストレ氏(41)は「若い建築家が行政機関と共に働くのは信じられないほど難しい。それに加え、巨大な建物で新しいアイデアを試したり、人々の考え方を変えるのは不可能だ」と語る。小さな住宅がこの仕事について学ぶ自由を同氏に与えた。「オペラハウスは大プロジェクトだが、大問題でもある」と同氏は指摘する。

  巨大建築ブームは10年足らずでスペインの不況と共に消え去り、シルベストレ氏のキャリアが花開いた。ミニマルで極めて斬新な設計と共に、インテリアデザイナーのアンドレス・アルファロ・ホフマン氏との協業が評価されている。

バレンシア郊外の「ハウス・オン・ザ・クリフ」ー地中海が広がる

Courtesy of Fran Silvestre Arquitectos

  シルベストレ、ホフマン両氏は建築におけるホリスティックアプローチの先駆者だ。屋根の形状からドアノブまであらゆる物を全体的に捉える。シルベストレ氏が11年に手掛けた「ハウス・オン・ザ・クリフ(崖の上の家)」では、ホフマン氏が仕上げと間取りに協力。地中海を望む景色となじむようにインテリアのデザインも手伝った。

  世界中でゆっくりと広がるインテリアとエクステリアのデザインの融合という設計コンセプトの最前線に立つのがシルベストレ氏のチームだ。このコンセプト自体は建築史を形成するほど古く、ルネサンス期のアンドレア・パラディオ、より最近では米国のフランク・ロイド・ライドが手掛けた建築はその例だ。

  米デラウェア大学のサンディー・アイゼンシュタット教授(近代建築史)によれば、「モダニズムではエクステリアとインテリアを関連付けるという原則が最も顕著だった」。だが1970年代までにそうした哲学の熱気はなくなっていたが、一部でミニマリズムへの支持が始まり、このトレンドが戻ってきた。

「アルミニウムハウス」の内部

Courtesy of Fran Silvestre Arquitectos

  シルベストレ氏が設計した最良の建造物の一部は、斬新さの追求ではなく必要に迫られて生まれたものだ。バレンシア郊外にある「バリントハウス」はその一例だ。オーナーは1000平方メートルの家を望んでいたが、建築規制のため300平方メートルが上限だった。オーナーは「大きな間違いをしていた。ここに家は建てられない」と言ってきたが、シルベストレ氏は規制を読み込み、屋根裏と地階は容積率に含まれないことを突き止めた。その結果が宇宙船のようなこの家だ。ドラマチックなカーブ形状の屋根、大きな地階は自然光で満たされ、明かり取りの天窓が中心部を照らす。

シルベストレ氏-バレンシア郊外の「バリントハウス」で

Photographer: Salva Lopez for Bloomberg Businessweek

米英より手頃

  わずかな例外はあるが、シルベストレ氏が建てた家は地中海の気候に合わせ、使い勝手を最大限に引き出すため屋内外スペースの全体的統合が図られている。同氏への受注は爆発的に伸びている。10年余りをかけ最初の20戸を建てたが、同氏のスタジオは今、24戸の建設もしくは設計の最終段階で2年以内に完成予定だ。「静かな革命だ」とシルベストレ氏は話す。

  同氏の会社はホフマン氏と協力し、卸売り販売する家具の開発も進め、手掛けるプロジェクトの規模と範囲も広げている。最近ウクライナの顧客向けの設計を終えた。11年にはバレンシアで風力タワーの設計コンペティションで勝ちを収めたが、このタワーはまだ建設されていない。

  富裕層がシルベストレ氏の顧客だが、米国や英国の同業者に比べると、その物件は手頃だ。同氏の試算によれば、住宅の建設コストは1平方メートル当たり約1000ユーロ(約13万1000円)、あるいは1平方フィート当たり104ドル。シルベストレ氏が最高級の仕上げを施した5000平方フィート(約465平方メートル)の住宅は、土地代を除き約52万ドル(約5700万円)でできるという。「スペインではなんと安いのかと米国人は驚く。たぶんわれわれが中国で家具を生産するような感じなのだろう」と語る。

  シルベストレ氏の目標は顧客の日常生活の質を向上させることだ。「何ものにも妨げられずに静かにリラックスできることが絶対不可欠だ。それがマテリアルとデザインの継続性を私が愛する理由であり、極めて重要だ」と同氏は述べる。

  (ブルームバーグ・ビジネスウィーク誌に掲載の記事です)

原題:This Architect’s Beautiful Homes Solve the Problems of Modern Design(抜粋)

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