「シリコンバレーより南武線」、トヨタがIT技術者狙い撃ち求人広告

  • 自動運転やコネクティッド技術の開発競争が激化し人材争奪戦
  • 沿線にはNECや富士通、東芝、キヤノンなどの研究施設

「狙ったように貼ってあるのは挑戦的」ー。神奈川県川崎市と東京都立川市を結ぶJR南武線の駅にはトヨタ自動車からの熱烈な誘い文句が並ぶ求人広告が掲げられ、ハードウエア開発エンジニアの芦田順也さん(39)は勤務先の最寄り駅で目にした大胆な広告に驚いている。駅のホームからは大手電機メーカーの社屋がすぐ目の前にあり、従業員専用の改札もある。

  ーえっ!?あの先端メーカーにお勤めなんですか!それならぜひ弊社にきませんか
  ーシリコンバレーより、南武線エリアのエンジニアが欲しい

南武線駅ホームのトヨタ求人広告

Photographer: Emi Nobuhiro/Bloomberg

    
  7月半ばから南武線沿線の駅に掲示されたトヨタの中途採用広告が人目を引いている。都心からアクセスのいい南武線沿線にはNECや富士通、東芝、キヤノンなど電機メーカーや情報技術(IT)系企業の研究施設が多く、川崎市は「ハイテクライン」とも呼んできた。自動運転やコネクティッド技術などの開発競争が激化する自動車業界には、即戦力の引き抜きに絶好の地域だ。

  求人広告は数種類あり、「ネットやスマホの会社のエンジニアと、もっといいクルマをつくりたい」とか、「交通事故死をゼロに近づけるためのコードを書こう」と具体的に呼び掛けるものもある。駅ごとに特定の企業を想起させるように「あの電気機器メーカーにお勤めなんですか!」などと文言を変え、人材確保に賭ける並々ならぬ意気込みが伝わってくる。

  今回の広告キャンペーンについて、トヨタ広報担当の土井賀代氏は「沿線の企業からの応募を期待している」という。

IT技術者は争奪戦

  転職支援サービスのリクルートキャリアが発表した6月の転職求人倍率は全体で1.87倍だったのに対して、IT系エンジニアは3.83倍と高水準。同社広報担当の原ちひろ氏によると、部品メーカーも含め自動車会社からのIT系エンジニアの求人数は、2014年1月と比べて3倍以上に増えているという。ITによる産業構造の変化に人材育成が追いつかず、結果として限られた人材を奪い合う構図になっている。

  今回のトヨタの広告戦略について、人材紹介会社HCCRの採用担当マネージング・ディレクターのケーシー・アベル氏は「トヨタのような有名企業の戦略としては非常にユニーク」と話し、日本でも過去に特定企業の従業員を対象に求人活動をした例は複数あるという。自動車業界に限らず、さまざまな分野でIT人材が不足しており、人材確保にはこのような積極的な求人活動が必要だと語った。

  米カリフォルニア州のシリコンバレーなど世界中で新興企業も含めてIT人材の争奪戦が激化している。アベル氏は、トヨタが優秀な技術者の期待に応えられる職場環境を提供できるかという点には疑問もあると話す。さらに自動車メーカーの商品開発サイクルが従来のような3-7年のままだとすると、技術進歩が著しいIT業界の技術者は不満を感じる可能性があると懸念を示した。

流動性低い国内エンジニア市場

  経済産業省が昨年公表した米国や中国、インド、韓国など8カ国でIT関連従事者を対象にした調査では、給与・報酬に対する満足度で日本が最も低かった。平均年収はIT先進国の米国と日本で2倍近く差がある。インドでは他の産業の年収水準と比べIT人材は9倍近くの平均年収を得ているのに対し、日本や韓国ではそれほど差がないことも分かった。
   
  一方、日本では人材の流動性の低さが際立っている。一度も転職をしたことのないIT人材が日本では47%だったのに対し、他国では韓国で23.8%、米国やインドで10%台だった。

  トヨタの求人広告を目にした沿線のエンジニアの芦田さんは、電気系企業の従業員でも自動車に興味がある人は多いとした上で、「これからの車はほとんどが電気系の技術になる。転職を考えている人の中には前向きに考える人もいるのではないか」と話す。

  トヨタは自動運転など先端技術開発に力を入れ、研究開発費が今期(18年3月期)に1兆500億円の計画と、4期連続で1兆円超の見通し。昨年発表のコネクティッド戦略では、車から集めるビッグデータの活用を拡大していく方針を示した。シリコンバレーには人工知能(AI)技術の研究開発拠点を設けるなど、人材育成や競争力の強化に取り組んでいる。トヨタは4日に4-6月の決算を発表する。

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