【FRBウオッチ】テーラー・ルールが可視化する金融バブルの拡大

  • FF金利、利上げ後もなお適正金利を大幅に下回る
  • 次期FRB議長、テーラー教授も候補の一人と目される

金融空間では史上最大規模のバブルがなお膨張を続け、実体経済とかけ離れて浮遊しているようにみえる。米連邦準備制度理事会(FRB)を中心に展開する金融市場では、行き過ぎた緩和政策が過去に何度も大波乱を巻き起こしてきた。特にバーナンキ第14代FRB議長が考案した大規模資産購入(LSAP)とゼロ金利政策をセットにした「異例の緩和」は、未曾有(みぞう)の金融バブルをいまだに膨らませている。

  1990年代から今世紀初めにかけて生じたIT株式バブルと、2007年に崩壊が始まる住宅金融バブルはいずれも、連邦公開市場委員会(FOMC)によるフェデラルファンド(FF)金利引き下げで醸成され、その後の引き上げで破裂、景気後退へとつながってきた。今回の景気拡大局面では9年目にしてなお政策金利が極めて低い水準に設定されており、バブルは株式市場はじめ債券、自動車ローン、学資ローンなど広範な領域で先例のない水準まで膨張しているようにみえる。

  FOMCは現在、FF金利の誘導目標を1~1.25%のレンジと、なお歴史的な低水準に維持している。債券購入で4兆5000億ドル(約496兆円)に拡大したFRBのバランスシートも、まだ手付かずのままだ。今回の金融緩和度を目視するため、次期FRB議長候補の一人と目されるジョン・テーラー教授(スタンフォード大学)が考案した「テーラー・ルール」に基づく適正な政策金利水準を目安にすると、実際のFF金利水準はこの目安を大幅に下回ってきた上、その期間が異常に長くなっていることが明らかになる。

  昨年11月の時点で、FF金利誘導目標上限(0.5%)は、テーラー・ルール値(3.9%)を3.4ポイント下回っていた。この時のテーラー・ルール値に対するFF金利の下方乖離(かいり)は、1970年代以降で最大となった。低い政策金利に量的緩和を加えれば、政策効果は過去最大と言っても過言ではあるまい。

  さらに1970年代は金融空間はまだ小さく、金融緩和効果は実体経済を直撃し、ハイパーインフレションが引き起こされたものの、目立った資産バブルは生じていない。しかし、1982年末から始まる景気拡大の中で、米国経済は金融空間の拡張期に入る。ハイパーインフレを強力な金融引き締め策で終息させたボルカー第12代FRB議長は、米経済の基盤を強化したことで後世に名を残した。しかしこれが史上最大のバブル膨張のお膳立てとなったのは皮肉なことだ。

  ハイパーインフレのトラウマ(心的外傷)に悩まされて80年代から20世紀末にかけては引き締めに傾いた金融政策がとられたが、今世紀に入るとデフレ懸念が頭をもたげ始め、緩和的な政策が優先されるようになる。

  特に2008年9月のリーマン・ショック以降、グレートリセッションとその後遺症の低成長経済を克服する目的で、ゼロ金利やLSAPなど超緩和措置が延々と続けられてきた。今回の景気拡大局面での金融緩和は、テーラー・ルール値とFF金利の下方乖離が70年代と同じ程度に広がっているが、当時の緩和度(下方乖離)は急速に縮小する局面にあった。

  一方、今回は2011年末にテーラー・ルール値と現実のFF金利が一致する0となった後、2016年11月末の3.4ポイントに至るまで5年間にもわたり緩和度を高めてきた。その後、3度利上げが実施されたが、今年7月末の時点で下方乖離幅は2.5ポイントとなお歴史的に極めて高い緩和度を保っている。この前代未聞の緩和は、基軸通貨ドルを操るFRBが主体となっているだけに、その繰り出すバブルが崩壊すれば、リーマン・ショックを凌駕(りょうが)する危機が訪れる恐れがある。 

  1979年8月にFRB議長に就任したボルカー議長は、FF金利を20%まで引き上げる気概を有していた。この強力な引き締めで経済の安定化に成功する。一方、イエレンFRB議長は景気拡大期9年目にして、なお超金融緩和を続けている。もっともそのボルカー議長にしても、その後の金融自由化による金融空間の拡大にはなすすべもなかった。
  
(【FRBウオッチ】の内容は記者個人の見解です)
 
--取材強力:Chris Middleton, Vince Golle, Catarina Saraiva

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