政府は世界最大の年金基金、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)による資産運用の前提となる公的年金制度の持続可能性を巡る定期点検を始めた。

  厚生労働省は31日午前、社会保障審議会の年金部会の下に設けた、有識者12人からなる「年金財政における経済前提に関する専門委員会」(委員長:植田和男共立女子大教授・東大金融教育研究センター長)の初会合を開いた。政府が2019年に実施するとみられる5年に一度の年金財政検証で用いる経済前提を策定する。

  同委員会は当面、2カ月に1回程度開催し、専門家からの意見聴取や計量モデルの改定などを進める。来年秋ごろまでに最終的な検討作業班を設置し、19年春ごろに議論を取りまとめる予定だ。次回会合では前回14年にかけて委員長を務めた吉野直行アジア開発銀行研究所所長を招く。

  年金財政検証では将来の人口推計や経済・財政・労働需給見通しなどに基づき、年金保険料の特定水準までの引き上げや国庫負担、積立金の取り崩し、給付額の伸び抑制によって、現役時代の手取り賃金の半分以上を支給できるか試算する。前回は女性・高齢者の労働参加や長期的な経済成長の原動力となる全要素生産性(TFP)の伸びに応じ、経済成長と物価・賃金上昇の組み合わせを8通り示した。

  公的年金制度は高齢化で膨張する給付額を現役世代からの保険料や税金などで賄い切れず、1割前後をGPIFからの拠出に依存。GPIFは政府が14年6月に公表した年金財政検証を踏まえ、同年10月に資産構成の目標値を国内債6割の安全重視型からリスク性資産が3分の2近くを占める収益追求型に変更した。

  今回の会合で委員が指摘した主な論点は以下の通り。

  • 小野正昭みずほ信託銀行年金研究所主席研究員:
    • 今後100年のうち後半の50年間は人口安定期となる。足元の動向に引っ張られ過ぎない方が良い。金利についても前回は当時のイールドカーブを踏まえて設定したが、今回は検討の余地がある
    • 前回はGPIFの収益率目標を長期的に国内債プラス0.4%ポイントとしたが、結果的にかなりリスクを取るポートフォリオ改定になった。今回は収益率のボラティリティ上昇も踏まえ、どう評価するかも重要だ
  • 米沢康博早稲田大大学院教授:
    • 長期の推計で一般的なコブ・ダグラス関数には賃金が高めに出てしまう「数字のマジック」がある。消費という需要サイドから金利をみていく手法もあるだろう
  • 小黒一正法政大教授:
    • 物価が異次元緩和で一時的に上がったものの、また鈍化してきた点も考慮すべきだ
  • 玉木伸介大妻女子大短大部教授:
    • 賃金をどうみるかが重要な論点の1つだ。経済成長と雇用情勢は改善しているのに、賃金は上がっていない
  • 野呂順一ニッセイ基礎研究所社長:
    • 経済は長期的には供給サイドで決まるというのが経済学の常識ではあるが、過去20年の日本経済は需要サイドの輸出次第だった
    • 物価の予測は難しい。マネーで決まるという考え方は誤りだ。フィリップスカーブの議論もあるが、19世紀は長期デフレの時代だったにもかかわらず、英国は高い実質成長率で大英帝国の反映を築いた
  • 吉川洋立正大教授:
    • 年金財政検証で世間の中に分かりやすいのは人口面だが、TFPについても丁寧に説明する必要がある。推計時に輸出がTFPに含まれるなら、中国経済の見通しなどにも関心が集まる可能性がある
最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中 LEARN MORE