支持率が低迷を続ける中、安倍晋三政権は再び経済政策重視の政権運営へとシフトを始めた。支持率回復の鍵とみられているのは国民が実感できる賃金アップだ。秋の臨時国会では非正規労働者の待遇改善につながる「同一労働同一賃金」の実現が焦点となる。

  安倍首相は24日、支持率急落のきっかけとなった学校法人「加計学園」の獣医学部新設問題などめぐる閉会中審査に臨み、景気が良くなったと実感してもらえるような経済の好循環によって結果を出し「国民の信頼を回復していきたい」と答弁。その上で、「国民を豊かにしていくことであり、仕事をつくり、賃金を上げていくことだ」と語った。

  賃金アップは家計収入を増やし、安倍首相の政権運営に懐疑心を深める国民からの信頼回復につながる。みずほ総研の野田彰彦上席主任研究員は電話取材で、「経済を揺るぎないものにしていく。それが支持率回復に必要だ」と語った。

  24日付の毎日新聞の世論調査によると政権支持率は26%となり、第2次安倍政権発足後で初めて3割を切った。来年9月に自民党総裁任期が終わることを踏まえて、「代わった方がよい」との回答は62%にのぼり、「総裁を続けた方がよい」の23%を上回った。

  富士通総研のマルティン・シュルツ上席主任研究員は、支持率の低下は有権者がアベノミクスに納得しておらず、財政や金融政策では不十分だという警告だと指摘する。「日本の有権者は構造改革が不十分であることと、金融政策のリスクに気付いている」と話した。

  経団連の榊原定征会長は21日の会見で、安倍政権の支持率の現状について「深刻な問題だと受け止めている」と表明。「経済最優先の政策をしっかり推進し、デフレ脱却と経済再生を実現すれば、国民の支持も戻ってくる」として経済政策に集中するよう呼び掛けた。

物価と賃金

  国際通貨基金(IMF)は6月に発表した日本経済に関する審査(対日4条協議)終了後の声明で、アベノミクス第3の矢の構造改革の第一優先課題として「労働市場改革による生産性向上と賃上げ」を挙げた。その上で、公定賃金をインフレ目標と整合的に引き上げると同時に、黒字企業に対し毎年最低3%賃金を引き上げるよう奨励することを求めた。

  より高い賃金の実現へ向け機は熟している。企業は大量の現金を抱えており、法人企業統計によると2016年10ー12月期の企業収益は過去最大を記録した。5月の失業率は3.1%とG7諸国の中では最も低く、有効求人倍率は1.49倍と43年ぶりの高水準となった。

  しかし、米国、英国やドイツなどの先進国のように、労働市場のひっ迫が賃金上昇にはつながっていない。厚生労働省によると実質賃金の前年比は12年から15年にかけて低下傾向にあり、16年はわずか0.7%増にとどまっている。

  日本にとって、問題の一部は1990年代の経済危機の遺産にある。内閣府が21日公表した発表した「経済財政白書」では、バブル崩壊後の不景気で、労働者側は雇用を維持するために人件費の抑制を受け入れざるをえない状況が続いていたことを背景に、労働者側は「賃金決定に関する交渉力を弱めている」と分析した。

最低賃金

  政府の経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2017では、具体策として「同一労働同一賃金」と最低賃金の「1000円」への引き上げを掲げている。

  厚労省の5月の毎月勤労統計調査によると現金給与総額は前年比0.6%増となった。ただ、日銀の物価目標2%の達成には不十分で、家計支出も低調だ。16年8月に内閣府が実施した「国民生活に関する世論調査(16年度)」によると、49.6%が現在の収入に「不満」と答えている。
  
  政府は秋の臨時国会に同一賃金同一労働の関連法案の提出を目指す。みずほ総研の野田氏は、非正規の正規への転換を促すことは政府が働きかける余地があるとして、その実現に期待を寄せる。非正規雇用が日本の労働者の4割近くを占める中、「そこに光があたるという認識が広がっていけば政権への評価にもつながっていく」と話した。

  最低賃金に関しては、例年、厚労省の中央最低賃金審議会での議論を経て秋までに都道府県ごとに決定する。16年度の最低賃金の全国加重平均額は823円だった。

最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中 LEARN MORE