政府は3年後に東京五輪の開会式が行われる7月24日を自宅や会社外で電話やパソコンなどを使って働く「テレワーク・デイ」と今年から位置付け、企業に参加を促している。朝夕の通勤渋滞を放置すれば五輪開催時に国内外から集まる観客の輸送需要に対応仕切れないとの危機感が背景にあり、2020年までに取り組みを定着させたい考えだ。

  今年は750を超える企業・団体が参加を表明。電車の混雑時は自宅や最寄りの拠点で仕事をするなどの対応を従業員に呼び掛けた。

  江東区に本社を置くNTTデータでは、有給取得者を含めると7600人が午前8時-10時の出勤を回避する形となり、最寄りの豊洲駅では同時間帯の利用者が2割近く減った。また、テレワークを主導する総務省では内部部局の約3割にあたる900人超が参加した。一方で、運動の存在も知らない人も多く、24日朝の混雑に大きな変化はみられなかった。

  五輪開催時の鉄道混雑を推計するシミュレーターを開発した中央大学理工学部の田口東教授は、現状のままでは観客が時間内に競技場にたどり着けないケースや混雑による事故も想定されるとの見方を示した上で、競技時間や場所を分散できないのであれば、「通勤客に仕事に出ずに家にいてください」というしか回避策がないと述べた。

東急東横線の渋谷駅
東急東横線の渋谷駅
Photographer: Tomohiro Ohsumi/Bloomberg

  東京圏の主要31区間の電車混雑率は、1970年代の高度成長期に220パーセントを超え「通勤地獄」という言葉が生まれた。鉄道各社の路線の複線化や車両大型化などの取り組みで徐々に緩和されたが、朝の混雑時は今でも多くの路線で「体が触れあい相当圧迫感がある」とされる200%を超えている。

  国交省の交通政策審議会によると、東京都区部を1日に訪れる人数は2010年の391万人から30年には最大414万人に、鉄道需要は10年の2250万人から30年の最大2281万人に増える予測。五輪開催時にはマラソン、自転車ロードレース、トライアスロン、競歩などの種目は都心部か都心部と近郊を結ぶ主要幹線道路がコースとなっており、道路交通規制による電車利用者の増加も見込まれている。

ロンドンがお手本

  五輪開催時のテレワーク導入は、12年にロンドン市が成功させている。当時、毎日2500万人が公共交通機関を利用。競技チケット購買者数620万人と交通規制を理由に自動車から電車利用に切り替える200万人の増加が見込まれたが、取り組みの結果、混乱はほとんどなかったという。

  ロンドン交通局でテレワークのプロジェクトを率いたスチュアート・リード氏は、「膨大な人数が市内に押しかけたにも関わらず、普段よりも静かだったというコメントが寄せられた」と振り返る。ロンドン市民の7割が何らかの形で交通手段や経路を変え、通勤利用者の35%がテレワークの活用などで渋滞を回避する手段を取ったという。

  総務省の赤間二郎副大臣は20日のインタビューで、「日本では働き方改革が大きな政治テーマとして挙がってきているタイミング」だとして、五輪を契機にテレワークを浸透させたいと語った。今後は労務や人事管理の面で難しいと考える企業の「意識の壁」を崩していくことが課題になるとみている。

  中央大の田口教授は、五輪開催時に一定の緩和効果を実感するには、「少なくとも20%の日常利用者の減少」が必要であり、テレワーク以外にも乗り換え経路探索システムの情報提供の方法を変えたり、最寄り駅以外で降りて競技場に歩けば特典がついたりするさまざまな仕掛けが必要だろうと述べた。

三つの「変える」

  田園都市線や東横線を運営する東京急行電鉄では乗客に利用時間帯、移動手段、働く場所の三つを変えてもらうよう促している。共働き夫婦の増加、自動車利用者の減少により輸送人員が毎年増加、昨年は年間11.6億人と過去最高を記録した。鉄道事業本部の梶谷俊夫課長補佐は少子高齢化で長期的な需要拡大は見通せず、大規模な設備投資には慎重にならざるを得ないと話す。

東急電鉄のシェアオフィス「NW」の横浜店
東急電鉄のシェアオフィス「NW」の横浜店
Source: Tokyu Corporation

  朝の混雑時間帯前の電車利用者へのポイント還元や専用レーンを利用した路線バスを運行するほか、昨年5月には、パソコンを持ち込めば机とWi−Fi(ワイファイ)を利用できる空間(サテライトオフィス)運営事業を開始した。全国70カ所のオフィスで、法人70社、約3万人が利用登録をしている。不動産事業を展開する同社では、テナントに入居する顧客へのサービスと鉄道事業での混雑緩和の両面で効果が得られている。

  利用者はパソコンを持ち歩いての仕事に抵抗のない30ー40代中心で、男女比は半々。永塚慎一プロジェクトリーダーは、朝の混雑時間帯を避けるための利用も多いが、「保育園近くのオフィスを利用する子育て中の父母に特に好評」だと述べた。定額プランでは基本料金3万円でいつでも利用ができ、利用登録は毎月10%程度伸び続けているという。

働き方改革へ

  浅田晴之さん(51)は東急電鉄が横浜市で提供するサテライトオフィスを利用する一人だ。東京・赤坂にある職場を何時に出て移動するかはその日の業務の進み具合などに合わせて決める。自宅のある神奈川県葉山町まで計1時間50分の通勤時間は変わらないが、混雑時間帯の前に都心を抜けだすことで電車内で座って読書ができ、明るいうちに自宅に着くこともあるという。

  浅田さんの務める岡村製作所は社員に柔軟な働き方を推奨しており、東急のオフィスとは法人契約を結んでいる。複数の社員が利用しており、浅田さんは働く場所の「選択肢があること」がテレワークの一番のメリットと語る。介護が必要な両親は横浜市内の病院に入院しており、サテライトオフィスで仕事した後、気軽に見舞いに立ち寄れるようにもなった。

  岡村製作所は、政府の「テレワーク・デイ」にも参加しており、24日は従業員100人が自宅か最寄り拠点で勤務する。実施後には疲労や生活への変化、生産性などに関する効果測定も行う予定だ。
  
  

最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中 LEARN MORE