支持率が急落した安倍晋三首相が立て直しをかけて8月早々に行う内閣改造。焦点となっているのが岸田文雄外相の去就だ。宮沢喜一氏ら4人の首相を輩出した自民党の名門派閥「宏池会」(岸田派)会長で、「ポスト安倍」候補の一人として名前が挙がっているが、真意はまだ見えてこない。

  「政権を取るということを将来、考えた場合にやはり大事なのは忍耐とか謙虚さ。こういった発想なのではないか」。岸田氏は4日、都内で開いたシンポジウムで、「今の経済政策における格差といった負の側面に対して適切に対応することが重要だ」とアベノミクスの問題点に言及した。しかし、安倍首相に対抗して自民党総裁選に名乗りを上げる気配はない。

  安倍政権の支持率は、加計学園の獣医学部新設問題などの影響で50~60%台から急落。2日の都議選では自民党が惨敗し、その後の支持率は軒並み30%台に落ち込み、政権運営が困難になる「危険水域」に入った。時事通信の7月調査では29.9%と30%を割り込んだ。支持率の低迷が続けば、来秋の次期総裁選でのトップ交代の可能性も現実味を帯びる。

  政治評論家の森田実氏は内閣改造では外相続投の可能性が高いとみている。岸田氏が内閣や党の役職から外れると「政権の安定にとってプラスにならない」ことを理由に挙げたほか、岸田氏にとっても役職について情報を集められる立場を維持することが得策との見方を示した。

  宏池会名誉会長の古賀誠元自民党幹事長は最近、岸田氏に「川で犬が溺れている時に棒でたたくようなことにはならないようにしよう」とアドバイスしているという。19日のインタビューで、岸田氏は政権を支える姿勢は崩さず、外相続投や党役員就任などで首相から協力要請があった場合は「応えていくということでぜひ、進んでほしい」と話した。

  NHKによると、安倍首相と岸田氏は20日夜に会談し、内閣改造や自民党役員人事などを巡って意見交換したとみられる。朝日新聞は21日付朝刊で、安倍首相が岸田氏の外相留任の意向を固めたと報じた。

「誠実さ、真面目さ、謙虚さ」

  岸田氏は日本長期信用銀行で勤務した後、衆院議員を務めていた父・文武氏の秘書を経て1993年の衆院選で初当選し、現在8期目。消費者行政推進担当相、国会対策委員長などを経て2012年10月、古賀氏から宏池会会長を引き継いだ。同年12月の第2次安倍政権発足と同時に外相に就任。被爆地である広島1区選出で、昨年5月のオバマ米大統領(当時)の広島訪問を実現させるなど安倍外交を支えてきた。

  安倍首相とは当選同期の岸田氏。周辺はそろって、その人柄の良さを口にする。自民党広島県連幹事長で議員秘書時代から知っている林正夫県議は「いまだかつて人の悪口を言うのを聞いたことがない」と話す。古賀氏も後継の派閥会長に推した理由として「誠実さ、真面目さ、謙虚さ」を挙げた。

  自民党が大敗し、野党に転落した09年の衆院選でも広島県内で唯一、小選挙区での議席を守った。後援会長を務める広島市の砂糖卸会社社長、伊藤学人氏は「生真面目という表現が一番ぴったり」と評価している。

  早稲田大学時代から交流のある自民党の岩屋毅衆院議員(麻生派)は岸田氏について「昔から物静かで貴公子然としたところがあった」と振り返るが、「いよいよ天下を目指そうというからにはもうちょっと自己主張をしたほうがいい」と述べた。

  岸田氏は4月に開いた派閥パーティーで、「安倍時代もいつかは、後が巡ってくる。私たち宏池会はその時に何をするのか、何をしなければならないのか、これを今からしっかりと考えておかなければならない」と話していた。

因縁の歴史

  政治評論家の森田氏は来年の自民党総裁選に安倍首相が出馬すれば再選されると分析するが、仮に何らかの理由で退陣した場合は麻生太郎副総理兼財務相、石破茂元幹事長、岸田氏の争いになるとの見方だ。

  ただ、安倍政権ナンバー2の麻生氏、憲法改正などで首相に異論も唱えて独自性をアピールしている石破氏と比べ、控えめな岸田氏は「曖昧な路線」で「なんとなく弱いという感じを持っている人が多い」と指摘する。

  昨年12月に産経新聞とFNNが行った合同世論調査で「日本の首相として誰がふさわしいか」との問いに安倍首相は34.5%、石破元幹事長は10.9%だったのに対し、岸田氏は2.0%と民進党の蓮舫代表(4.7%)も下回った。

  宏池会は今年で創立60周年を迎えた党内の「保守本流」。安倍首相の出身派閥で福田赳夫元首相が創設した「清和会」の流れをくむ細田派(清和政策研究会)とは因縁の歴史もある。00年には宏池会会長で「ポスト森」の有力候補だった加藤紘一氏が、清和会出身の森喜朗首相への内閣不信任案に同調する動きをみせるも、派閥をまとめられず失敗に終わった。

  古賀氏は「清和会は伝統的に国家、強い国家。宏池会は人、人間を大切にする」と両派の特徴を解説する。安倍首相が意欲を示す憲法9条改正については「今、それを考える時でない」との認識で岸田氏とも一致していると話すが、小選挙区制度が定着した現在は「ただ単に権力闘争で政権を奪い取る」という時代ではないと述べた。

  古賀氏はいわゆる「加藤の乱」について「勝手に加藤さんが自滅した。ああゆうことにならないようにしなければならない」と振り返る。「必ずタイミングは来る。つかむには根気と努力が必要なんだ」。そう岸田氏に繰り返し話しているという。

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