「お前ら、これ押しつけてないだろうな?」ーー。日産自動車の社長兼最高経営責任者(CEO)、西川廣人は6月30日に開いた三菱自動車との会議で部下にくぎを刺した。米国事業での相乗効果(シナジー)を模索する中で自社の考えを三菱自側に無理強いしない配慮だ。

西川廣人氏
西川廣人氏
Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

  三菱自の傘下入りで世界最大級の自動車メーカーグループとなったルノー・日産連合(アライアンス)はグループ間の株式の持ち合いを過半数以下にとどめ各社の独立性や自主性を保ちながら協力関係を築く緩やかな企業連合だ。互いの利害が衝突する場面も多く、調整に細心の注意を払っている。

  自主性を尊重しあうことは、必ずしも自分の要求を我慢して相手に譲ることを意味しないと西川は強調する。徹底的に議論を尽くして「ルノーの要求にも100%ミートしろ、日産の要求にも100%ミートしろと。それで初めてOKになる」。

  燃費不正問題で経営危機に陥り、日産自に支援を要請した三菱自CEOの益子修は、アライアンスがそうした微妙なバランスの上に成立していることを実感した象徴的事例として昨年5月12日の資本提携発表の際の出来事を挙げる。

  その日は日産自が横浜市の本社で決算発表する予定で、提携の記者会見も同じ場所で開く方向で調整していたが、直前になって当時CEOだったカルロス・ゴーンが反対し、急きょ本社近くのレンタルオフィスで会場を確保した。益子によると、ゴーンは日産自の本社で会見すると三菱自を呼びつけて支配しているような印象を外部に与えかねないと懸念し、中立の場所で開催するべきだと主張したという。

ゴーン氏
ゴーン氏
Photographer: Akio Kon/Bloomberg

  現在のゴーンは三菱自会長として従業員にまず自社の良いところを強調し、必ず立ち直り成長できるというメッセージを投げ掛けているという。日産自再建の過程での過酷なリストラもあり日本では厳しいコストカッターのイメージで語られることが多いが、益子氏はそれとは「違う面を僕らはずいぶん見ている」と語った。「やっぱりポジティブな面で話されるとみんな元気になる。そういう配慮、気配りはすごい。これは日本人でもなかなかできないことだ」と話した。

互いのベスト引き出す

  「世紀の合併」といわれた独ダイムラーと米クライスラーの事例に代表されるように、自動車業界では国境を越えた合併・買収(M&A)の多くが相乗効果を発揮できないまま失敗に終わっている。そうした中でアライアンスが18年にわたって発展を続けられた秘訣は、お互いを独立した会社として尊重しながら双方のメリットを両立させることにこだわった点にあると日産自とルノーの幹部は口をそろえる。

  「トヨタ自動車など一枚岩の企業グループでは問題は自然と解決される。ルノー、日産、三菱の歴史は違う」。ルノーの最高競争責任者(CCO)、ティエリー・ボロレはフランスでのインタビューで、アライアンスの流儀は3社がまるで1つの会社であるかのようにお互いのベストを引き出していくことだと話した。

  自動車メーカー間の提携が失敗する「最も大きな理由はアイデンティティーに対するリスペクトがない」ためとし、「端的に言えば、契約書で書かれている内容以上にお互いを尊重せよということだ」と述べた。

  部品調達だけでなく技術の共有化も進んでいる。アライアンスのエグゼクティブ・バイス・プレジデントとしてグループ全体の技術開発を統括する山口豪(日産自副社長)によると、アライアンスでは個々の部品ごとに数十人の「シングルリーダー」がいて日産自とルノーの双方に責任を持って開発の方向性を決めている。車そのものの企画・開発は地域のニーズも踏まえて各社が別々に担当するが、「すべてのアライアンステクノロジーはルノー、日産で共通」という。

  SBI証券アナリストの遠藤功治は自動車メーカー同士の資本提携の失敗例として米フォードとマツダの関係を挙げる。フォードは08年までマツダの株式の33.4%を保有していたが実態は完全な経営統合に近く、社長をはじめ各部門のトップの多くも米国人で社内書類も英語になるなどほぼ「フォードが全部コントロールしていた」という。車台の共通化などでコスト削減を図ったものののうまくいかず、「今からみると全然だめでプラスよりマイナスのほうが大きかった」という。

  ルノーと日産自のアライアンスが機能しているのは、実態としても「完全なマージャー(合併)ではないからだ」と指摘する。アライアンスの傘の下に「違うブランドで完全に独立した別の会社があり、協力はするが一緒にはならない」とし、それを成立させているところにゴーン氏の手腕があるとした。

ローマ帝国

  「われわれはアライアンスを何もないところからつくり上げた」。アライアンスを統括するゴーンは年明け以降、横浜やニューヨークなどで5度にわたってブルームバーグのインタビューに応じ、トヨタや独フォルクスワーゲンに匹敵する規模に成長した企業グループの成り立ちについて語った。

  「日産は倒産寸前で、ルノーもまた非常に小規模なローカルメーカーにすぎなかった。頼れるのはこの2つの会社しかなく外部からの支援も一切なかった。そこから始まって2つの会社が一緒に仕事をするようになり、少しずつ凝集していった」。

  「どの会社でも自社のやり方がベストだと言いがちだがそれでは協力関係は成立しない」。ゴーン氏もアイデンティティーの尊重がアライアンスの必要条件だと話す。「新しいパートナーが弱くても強くても、困難に陥っていようが、もし私より優れた点があれば、まずそれを認めて次にそのやり方を真似る」「そうして落ちこぼれだった会社を勝ち組に変えていく。それがアライアンスの本質でありすばらしいところだ」ーー。

  読書家で、歴史にも造詣が深いゴーンが特に深い興味を持っているのはローマ帝国の興亡だ。狼に育てられた捨て子の兄弟、ロムルスとレムスが建国したとされる小さな都市国家が異文化を取り込みながら勢力を拡大し、地中海世界全域の覇権を握るにいたる過程は「現代の企業社会や政治でも類似したことが起こっている」からだという。
(敬称略)

三菱自に電撃出資、自動車業界の覇権射程に-ルノー日産の野望 (上)

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