日本銀行は物価目標の2%達成時期を「2018年度ごろ」から黒田東彦総裁の任期終了後となる「19年度ごろ」に先送りした。デフレ脱却は次の総裁に託されることになる。異次元緩和の出口がますます遠のく中、2%の物価目標の妥当性を問う声や、長引く緩和政策のコストを懸念する声が出ている。

  20日の金融政策決定会合後に公表した経済・物価情勢の展望(展望リポート)で、新たな見通しは軒並み下方修正された。日銀の自信のなさはリスク評価に表れており、18年度は9人の政策委員のうち6人が、19年度は8人が自らの物価見通しを「下振れリスクが大きい」と判断した。

  大和証券の野口麻衣子シニアエコノミストは同日付のリポートで、驚いたのは1年以上も先の話にもかかわらず、早くも「18年度ごろ」の2%達成を断念したことだけではなく、「ほとんどの政策委員が『1年の先送りでは全く足りない』と覚悟しているもようであることだ」という見方を示した。

  物価目標達成時期を先送りするのは、13年4月に異次元緩和を開始してから6度目で、昨年11月の会合以来となる。長短金利操作付き量的・質的金融緩和の枠組みによる金融調節方針は維持する。

解釈柔軟化

  相次ぐ先送りによって異次元緩和の効果に疑問符がつきかねない状況だが、黒田総裁は会見で「2%物価に向けたモメンタムしっかり維持されている」とした上で、「強力な金融緩和を粘り強く推進していく」と強調。「さらなる総括検証は必要ない」と断言した。

  BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは同日付のリポートで、数回の追加緩和にもかかわらず、2%の物価目標の達成は当初想定の3倍の6年間もかかる見通しで、「それすら全く不確実な状況だ」と指摘した。状況が改善しない場合、潜在的なコストが大きい大規模金融緩和を修正していくべきだという声が「政治サイドで広がって来る可能性はある」とみている。

  SMBCフレンド証券の岩下真理チーフマーケットエコノミストも顧客向けのメールで、日銀は物価目標2%の「解釈の柔軟化が必要となるだろう」と分析。国債市場の機能低下やマイナス金利の副作用を考慮すれば「長短金利操作の導入から1年経過となる9月以降、総括検証すべきだと提案したい」としている。

   金融緩和の一環として行う指数連動型上場投資信託(ETF)買い入れについても批判が集まっている。全国銀行協会の平野信行会長(三菱UFJフィナンシャル・グループ社長)が13日の会見で「さまざまな課題も指摘されている」と述べたほか、日本取引所の清田瞭最高経営責任者(CEO)は12日のインタビューで「いつまでも日銀が買っていることが前提になってしまうのは長い目で良くない」と述べた。

ETFに副作用ない

  黒田総裁は会見で、「東証の時価総額全体に比べても非常に小さなもの」であり、「企業のコーポレートガバナンスを阻害するようなことは全く考えていないし、行ってもいない」と述べた。日銀がETFを購入することによって、株価が下落した株式を投資家が購入する機会を失っているという質問に対しては、「副作用を呼んでいると思わないが、あまり意義のある話ではない」と話した。

  複数の関係者によると、日銀内で年6兆円のETF買い入れの持続可能性について懸念の声が上がっている。金融庁幹部によると、同庁は株主に企業統治(コーポレートガバナンス)の上で多くの役割を果たすように求めており、日銀が物言わぬ株主として市場で存在感を高めている現状を関心を持ってみている。 

  ニッセイ基礎研究所の井出真吾チーフ株式ストラテジストは「年6兆円の買い入れを続けていることで、個別銘柄、ひいては市場全体の株価をゆがめているので、将来に向けて負のマグマをため込んでいるに等しい」と指摘。日銀の財務が株価に影響を受けるのも「中央銀行として好ましいことではない。このまま行くと出口に向かうのがだんだん難しくなってくる」としている。

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