元日本銀行理事の早川英男氏は、物価の弱さから異次元緩和の出口は「早くても2020年度以降になりつつある」とした上で、そこに至る前に景気後退に見舞われる可能性があるため、日銀は総括検証第2弾を行い、現行政策の効果や副作用をあらためて精査する必要があると述べた。

  富士通総研エグゼクティブフェローの早川氏は14日のインタビューで、先行指標である東京都区部の実績から、6月の全国の生鮮食品とエネルギーを除く消費者物価指数(CPI)は「良くて前年比横ばい、下手をするとマイナスに逆戻り」になると予想。物価は「がく然とする弱さ」であり、景気後退に陥り身動きできなくなる事態を避けるためにも、「できれば9月の決定会合、遅くとも年内に」総括検証を行うべきだと語った。

  日銀が19、20両日に開く金融政策決定会合は、四半期ごとに公表する経済・物価情勢の展望(展望リポート)で「18年度ごろ」としている2%の達成時期を先送りするかどうかが焦点となっている。ブルームバーグが7-12日にエコノミスト43人を対象に実施した調査では、安定的に2%を超える状態は「実現しない」との見方が6割に達した。調査では、全員が金融政策運営方針の現状維持を予想した。

  4月の展望リポートでは、生鮮食品を除くコアCPI前年比の見通し(政策委員の中央値)は17年度が1.4%上昇、18年度が1.7%上昇だった。早川氏は新たな見通しについて「常識的に考えれば17年度は0%台だが、1%割れにはしたくないだろう。もっとつらいのは18年度の見通しだ」と述べた。

  たとえ今回2%の達成時期を維持しても、19年10月の消費増税を想定すれば、現実には「出口はその後落ち着いてからにならざるを得ないため、最低でも2年遅れる可能性がある」と指摘。出口に着手できるのが今から早くて3年先となると、「この間、景気は大丈夫と日銀も自信を持っては言えないだろう」という。

  早川氏は下方修正を繰り返す展望リポートは、もはや願望ですらなく、荒唐無稽だと語る。「日銀が姿勢を示せば皆が信じてくれるという思い込みが間違いだったことはすでに明らかになっている」と述べ、総括検証の必要性を重ねて強調した。

  早川氏は日銀のチーフエコノミスト的存在である調査統計局長を6年以上務めた後、名古屋支店長や理事を経て13年3月に日銀を退職し、同4月から現職。

理屈は早くも崩壊

  日銀は昨年9月に行った総括的検証で、物価が上がらない理由として海外経済や原油価格の下落を挙げたが、「今は海外経済は良いし原油が下がっているわけではないのに、また見通しを下げなければならなくなっている。昨年の理屈は早くも崩壊している」と指摘する。

  日本のインフレ期待形成が過去の物価動向に引きずられる傾向が強い「適合的」な要素が強いとの分析も「ずっと前から分かっていた。新しく発見したようなことを言っているが、そのような事実はかけらもない」と言明。「中央銀行が強い姿勢を示せば期待がついてくると思ったのに、ついてこなかった、間違ってごめんなさいと言うべき話だ」と憤る。

  物価目標2%の意味についても、「現状を見れば物価が上がらなくても経済は良くなっている」ことから経済的な意味は大きくないという。本当は、景気後退に陥っても物価が0%だと通常時の金利も0%なので、「中央銀行として政策対応余地を作るため2%くらい許してください」とお願いすべき話で、達成のために何でもやるという主張は筋違いだと語る。

出口論

  日銀OBである中央大学の藤木裕教授らは、2%の物価上昇率が実現した場合、金利をすぐに2%に引き上げることを前提に、出口で年最大約10兆円の赤字が発生するとの試算を示した。早川氏は「金利がゆっくり上がればコストは小さくなるが、出口が遠のいていることを考えると、もっと大きくなる可能性もある」と言う。

  赤字になっても問題ないという日銀の説明は「何の根拠があって言えるのか」と疑問を呈した上で、総括検証第2弾で「出口論もちゃんとすべきだ」としている。 

最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中 LEARN MORE