ドミトリー・カメンシチク氏から何かを奪うのは難しいと、最初に知ったのはモスクワの犯罪組織かもしれない。

  ソビエト連邦崩壊から間もない1992年、同氏はモスクワ郊外の荒れ果てた空港から国際貨物便を手配することで荒稼ぎしていたが、2人組の強盗が同氏の事務所に押し入り現金を要求。当時から働いていたエレーナ・タルシスさんは次の瞬間に起きたことを決して忘れない。

  「強盗が私の息子の頭に銃を突きつけた」と話すタルシスさんによれば、武道の達人であるカメンシチク氏は強盗を一突きし、同僚と一緒になって銃を取り上げたのだという。

カメンシチク氏(13日、ドモジェドボ国際空港で)
カメンシチク氏(13日、ドモジェドボ国際空港で)
Photographer: Andrey Rudakov/Bloomberg

  アマチュアのスタントパイロットだったカメンシチク氏(49)が犯罪組織やプーチン政権下の司法当局と闘いながら、ドモジェドボ国際空港の単独オーナーに就き、自身の地位を守っているのは、こうした生存本能があったからかもしれない。

  ブルームバーグ・ビリオネア指数によれば、同空港を欧州で最も忙しいハブ空港の1つに押し上げたカメンシチク氏の資産は30億ドル(約3400億円)。同氏が次に目指すのは国営アエロフロート・ロシア航空が本拠とするシェレメチェボ国際空港からロシア最大の空港というタイトルを奪い返すことだ。

  ブルームバーグのモスクワ支局で2時間に及ぶインタビューに答えたカメンシチク氏は、「ドモジェドボは恐らくロシアで最も監査の厳しい1社だ。われわれが生き残る唯一の道は法律を注意深く順守することだ」と語った。

リーマンの結論

  カメンシチク氏にひらめきが訪れたのは、2008年の金融危機で破綻した米リーマン・ブラザーズのおかげだ。エリツィン政権時代、1990-93年に合計便数が激減したモスクワの主要4空港の再生の青写真を描くためリーマンが起用された。同社の結論はクレムリン(大統領府)の南東45キロにあるドモジェドボが圧倒的に有望というもの。周囲に何もないというのがその理由だった。

  「この調査が自分の運命に影響を与えた。空港ビジネスにおける大きな要因は成長の見通しであり、ドモジェドボはまさにそれを備えていた」と同氏は話した。当時交渉していた空港当局者の事務所でこの188ページに及ぶ報告書を知ったという。

  エリツィン時代にウラル山脈のあるスベルドロスフク州で州議会議員をしていたセルゲイ・カプチュク氏によれば、同氏は当時、同郷のカメンシチク氏を「あらゆる面」で支援した。エリツィン大統領もまた同州出身だった。カプチュク氏はモスクワに住宅を買うため州の公金を使ったとして有罪判決を言い渡された後、2005年にロシアを離れ、政治亡命者としての保護を求めているロンドンでインタビューに応じた。

  中国製家電からトルコの衣料品まであらゆる商品に対する需要が急増する中で、カメンシチク氏は同僚らと共に航空会社イースト・ラインを設立。窃盗団から搬送品を守るため、一時は武装した約800人を警備要員としてそろえたという。

  ただ2000年に発足したプーチン政権が関税ルールを強化したことで、事業の収益性が低下。原油高で航空貨物需要も損なわれた。法人・個人の旅行需要が伸びていたこともあり、カメンシチク氏はイースト・ラインから撤退し、ドモジェドボの足場を固めることに集中した。

  英スカイトラックスの年間ランキングによれば、ドモジェドボは2010年までに東欧で最も忙しく最もよく管理された空港となっていた。だが業界外ではまだカメンシチク氏はほとんど知られていなかった。状況が変わり始めたのが11年。ドモジェドボで自爆テロが発生し、37人が死亡、200人近くが負傷した。

自宅軟禁

  当時のメドベージェフ政権は空港側の管理責任を追及したが、オフショア絡みの複雑な空港所有の仕組みで運営責任者の特定はできなかった。ただカメンシチク氏が同年、単独の空港所有者になると発表すると、当局はその後4年間にわたり空港側のセキュリティー違反を主張。同氏の弁護団は当局が15年に主張を取り下げるまで裁判所で反論し続けた。16年2月にも拘束され、同氏は弁護団が最終的に全ての問題を終わらせるまで自宅軟禁状態に置かれた。

  カメンシチク氏に「脅しは通じない」とロンドンに逃れたカプチュク氏は言う。言わばロシアの「ロックフェラー」なのだという。

  カメンシチク氏に批判的な向きは、機を見るに長けた組織犯罪まがいの密輸業者だとか、より大きな権力の代理人にすぎないなどと手厳しい。だが同氏は「われわれは誰とも非公式の関係は持っていないし、『ふさわしい人物』に問題の解決を依頼することはできない」と述べた。

  投資家は今のところ、カメンシチク氏の言葉を額面通りに受け取っている。INGグループソシエテ・ジェネラルUBSグループが昨年まとめたドモジェドボの債券発行書類には、いかなる投資であれ腐敗もしくは「違法活動」との主張から影響を受ける可能性があるとの注意書きが記載された。ロシアでは珍しくない免責条項だ。だが、それでもドモジェドボ債は今年、ブルームバーグ・バークレイズのロシア証券指数を上回るパフォーマンスとなっている。

原題:Logistics Whiz Takes On Putin Machine, Escapes a Billionaire (1)(抜粋)

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