日本銀行は先月、海外の中央銀行や国際機関からの預り金の一部に対するマイナス金利の適用を始めた。市場では過度の資金流入の回避が狙いとみる一方、足元で高まる短中期金利の上昇圧力を和らげる効果も見込めるとし、過去最高水準に達した海外中銀マネーに変調が生じるかどうか目を凝らしている。

  日銀は海外中銀などからの預り金に関する運用要綱を3月に改正し、6月5日から実施。従来の無利子から利息を付すことができるように改め、一定額を超える預り金には国債貸借(レポ)市場の実勢より0.05ポイント低い金利を適用する仕組みとした。レポ金利の指標となる東京レポレートはマイナス0.10-マイナス0.05%程度で推移しており、超過分への利息はマイナス0.15-マイナス0.10%程度となる計算だ。

  海外中銀から預かっている外貨準備などへのマイナス金利適用は、欧州中央銀行(ECB)が2014年6月のマイナス金利導入時から実施。2%の物価目標を掲げる日銀は従来の量的・質的金融緩和に加えて、16年1月末にマイナス金利政策を採用したが、海外中銀への適用は1年余りも遅れる形となった。

  日銀の統計によると、海外中銀などからの預り金勘定は3月末時点で海外中銀81、国際機関12の計93。残高は6月末に前年比68%増の16兆251億円と2カ月連続で過去最高を更新した。世界的な金融危機の兆しが現れた07年8月の213億円から、リーマンショック直後の08年12月には11兆8224億円と急増。10年9月に142億円まで激減した後、ECBのマイナス金利政策を背景に膨らんできた。

  三菱UFJモルガン・スタンレー証券の六車治美シニアマーケットエコノミストは、海外中銀の円資金は「TB利回りがマイナスになってから日銀預金への流入が増えた。積み過ぎて適用されたマイナス金利がTB(国庫短期証券)より低ければ、金利面での裁定が働いてTBの需給改善要因になる」と指摘。「制度がもたらし得る歪みを是正し、日銀預金への過度な流入に歯止めをかける狙いがあるのでは」とみる。

予測は困難

  海外中銀へのマイナス金利適用が、短中期の市場金利にどの程度影響を与えるかを正確に予測するのは難しい。日銀は新たな運用要綱で、ゼロ%の利息を適用する限度額の決定に際しては「預り金勘定への大規模な資金シフトが生じるリスクを抑制する観点等を踏まえる」と記しただけで、民間金融機関の当座預金のケースとは異なり、限度額の具体的な算出方法や水準を公表していないからだ。

  日銀国際局の幹部の1人は、限度額の設定で海外中銀に急で著しい不利益を与えることと、市場に不測の影響を及ぼすことは避けなくてはならないとブルームバーグの取材に対して説明した。

  SMBC日興証券の竹山聡一金利ストラテジストは、日銀のマイナス金利適用で海外中銀からの預り金の増勢が鈍化すれば、債券市場への資金流入を促す裁定の働きが強まると指摘。結果的に、国債買い入れの増額とは別の経路で、金利上昇の抑制につながる可能性があると語った。

  TB3カ月物は6日の入札で最高落札利回りがマイナス0.0912%と昨年4月以来の水準に上昇した。先週は新発2年債利回りがマイナス0.10%と、先月に記録した1年半ぶりの高水準マイナス0.09%に接近。5年債はマイナス0.035%と、日銀が昨年11月に指定した利回りで無制限に買い入れる指し値オペを発動した水準を上回り、日銀は12日に中期ゾーンのオペ増額を余儀なくされた。

  東短リサーチの寺田寿明研究員は、海外中銀の預金は短中期債がマイナス利回りのため、「償還資金を再投資できず、日銀の口座に眠る形になっていた。短い円債に資金が入ってくる可能性があり、需給が締まる要因だ」と指摘。日銀がマイナス金利の適用を3月に決めた背景には、「海外中銀の資金が集まってきて円高になるのを避けたいとの考えもあるかもしれない」と読む。

財政等要因の振れ

  寺田氏は、海外中銀の動向をいち早く把握する指標として、日銀が月初に公表する当座預金の増減要因での「財政等要因」の見込みと翌月に明らかになる実績との差に注目。財政等要因とは国債の発行・償還額などによる財政資金の動きのこと。海外中銀がマイナス利回りの国債を嫌って償還後の再投資を見送ったり市場での売却に動けば、財政等要因の下振れにつながる。

  四半期ごとの財政等要因の推移をブルームバーグが調べたところ、昨年9月末の増減見込みがマイナス4兆500億円だったのに対し、実績はマイナス7兆6035億円と見込みを3兆5535億円下回った。その差は昨年末に2兆8273億円、今年3月末は2兆155億円と徐々に縮小。6月末は見込みがマイナス2400億円、実績は2063億円となった。

  寺田氏は「兆円単位のずれは海外中銀の影響とみられ、償還資金を再投資できず、預り金を積み上げている」と分析。下振れ額が徐々に減って6月にはほとんどなかったのは、こうした資金の流れが一服した可能性があるとみる。

ユーロ圏へ回帰も

  国際通貨基金(IMF)の統計によると、円の外貨準備高は3月末に4030億ドルと過去最高に達し、ECBのマイナス金利導入前の14年3月末から62%増えた。通貨構成の判明分に占める円の比率は、同年9月末の3.48%から今年3月末には4.55%に上昇した。一方、ユーロが世界の外準に占める比率はリーマンショックから約1年後の09年9月末に28%と最高を記録。その後は頭打ちとなり、15年末には19.1%まで低下し、今年3月末も19.3%と低迷が続いた。

  しかし、4月以降はECBが金融緩和の縮小に向かうとの観測が台頭し、ユーロ圏で最も信用力が高いドイツ国債の10年物利回りは12日に0.619%と昨年初め以来の水準に上昇。約3カ月間で4倍近い高さとなった。独2年物も2月から0.3ポイント強、5年物は0.5ポイント近く上昇した。

  メリルリンチ日本証券は、ECBは量的緩和の段階的な縮小を来年1月から始めるが、マイナス0.4%の中銀預金金利を引き上げるのはその先だと予想。大崎秀一チーフ金利ストラテジストは、短期ゾーンの金利はまだ日本の方が高いが、日銀による預り金へのマイナス金利適用がユーロ圏に資金が戻る流れを速める可能性はあると指摘した。

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