中国への返還から20年。中国本土の急成長と共に途方もない富を蓄え、アジアの金融センターとして豊かになった香港。その街角で朝早くから段ボールを拾い集めてはリサイクル業者に1日当たり2.60米ドル(約250円)相当で売り歩き、生活費を稼ぐ女性たちがいる。

  彼女らは「紙皮婆婆」と呼ばれ、非政府団体の推計によれば、その数は5000人に上る。香港の路上でよく見かける「フェラーリ」と「ランボルギーニ」、「ロールス・ロイス」を合わせた台数より40%近く多い人数だ。標準的な指標によれば、香港の所得格差は一段と広がっている。2017年には記録を更新し、アジア最大。英米よりも貧富の差が大きい社会となった。

フォクさんは午前4時に起きて段ボール集めの仕事に向かう
フォクさんは午前4時に起きて段ボール集めの仕事に向かう
Photographer: Billy H.C. Kwok/Bloomberg

  広東省の農民だったフォク・メイスンさんが香港にやって来たのは、もう20年近く前だ。本土に多くの製造業が移転し、建築ブームで広大な農地が、拡大しつつあった中間所得者層のための住宅地に変貌し始めていた時期だった。フォクさんによれば、かつての本土の隣人らは農地を手放すことで多額の対価を不動産開発業者から受け取り、今は彼女よりはるかに豊かな生活をしているのだという。

  67歳のフォクさんは、香港社会における経済機会分断を象徴するような存在だ。6月下旬、彼女のような仕事をしている75歳の老人が食物環境衛生署の職員に拘束され、これに対し抗議活動が拡がった。英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)によれば、一枚の段ボールを1香港ドル(約15円)を無許可で売ったためで、この違法行為は5000香港ドルの罰金処分に相当する。食物環境衛生署は結局、検察当局と協議の上、老人の身の上を考慮して容疑を取り下げた。

  香港大学秀圃老年研究センターの責任者を務める林一星教授は、「この美しい町づくりを支えてきたのがこうした老人たちだ。集めた段ボールをわずかな値段で売って生活を支えることしかできない忘れられた働き手だ」と語る。

  教育水準の高くない女性を中心としてこうした人々の多くが、家族の生活を助けようと1990年代後半に本土から香港に移り住み、低賃金の仕事に就いた。香港政府の公共政策研究センターによれば、こうした人々は経済的に特に脆弱(ぜいじゃく)で、支援を必要としている。同センターの報告書では、香港当局が採用した公共衛生労働者の約44%が1995-2002年に香港に移り住み、78%が女性だった。

14年余り段ボールを集めを続けたフォクさん-背中を痛めフルタイムの仕事には就けなくなった
14年余り段ボールを集めを続けたフォクさん-背中を痛めフルタイムの仕事には就けなくなった
Photographer: Billy H.C. Kwok/Bloomberg

  フォクさんが20年ほど働いて貯めた5万香港ドルは、公共衛生の仕事を退職して2年のうちに使い果たしてしまった。働ている間も大半の期間、月3000香港ドルの給料の約3分の2を家賃の支払いに充ててきた。木製の壁で仕切られた狭いアパートだが月2000香港ドルだった。ピーク時の月給は6000香港ドルだが、家賃も倍の4000香港ドルになった。

  フォクさんが5年待ってようやく公的補助付きのアパートに住めるようになったのは昨年9月だった。「今はずっと気が楽になった」と言うが、「私よりも運のない老いた人々も多く知っている」と語る。月2490香港ドルの手当があるものの、「この歳でまだ生活に苦しんでいる」のだそうだ。

  フォクさんは、腰を曲げながら段ボールを集める仕事を14年余り続けたことで背中を痛め、フルタイムの仕事にはもう就けない。夫と別れたのはだいぶ昔のことだ。息子が2人いるが、経済面で世話になることはできないし、それぞれの家族を支えるだけで精一杯の息子たちの負担にはなりたくない。そして今でも、午前4時に起きて段ボールを集める仕事に出るのだという。今は「食べるためにこの仕事をしている」と話した。

原題:As China Neighbors Got Rich, Working in Hong Kong Left Her Poor(抜粋)

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