世界最大の年金基金、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)はESG(環境・社会・ガバナンス)の要素を重視した日本株投資が現在の1兆円程度では長期的な運用成績の向上につながらないとみて、今後も拡大していく方針だ。

GPIFの水野CIO
GPIFの水野CIO
Photographer: Patrick T. Fallon/Bloomberg

  水野弘道理事(運用担当)兼最高投資責任者(CIO)は11日、ブルームバーグとの英語インタビューに応じ、GPIFが現在抱えるESG関連の資産規模は世界中の投資家に分かりやすく影響が見込める半面、日本株保有額の「3%では運用成績には影響がない。いかにも小さ過ぎて意味がない」と指摘した。「市場に及ぼす影響と運用成績への影響」の両方を考慮するが、「運用成績にもある程度の影響が出るような規模」に増やしていく必要があると述べた。

  GPIFは長期的なリスク抑制と収益向上に加え、日本企業を巡るESG評価の高まりを促すため、日本株のESG指数3本に連動したパッシブ運用を開始した。将来的には他のESG指数の活用やアクティブ運用などを含めて拡大していく方針だ。高橋則広理事長は7日のテレビ東京の番組で、運用規模の見通しについて、日本株保有額の1割程度が目安になると述べた。

  水野氏は外国株式のESG投資について、「考え方としては日本株との区別はない」と述べ、運用先が全世界に広がる可能性を示唆した。日本株での指数採用をめぐっては、企業の情報開示を改善させて全体の底上げを図る必要があり、ESG関連のアクティブ運用の選択肢も少なかったためとした半面、外株では指数よりアクティブ運用の方が効果的だとの結論に達する可能性もあると話した。

  3月末時点のGPIFの運用資産144.9兆円のうち、国内株式は約35.2兆円で、年金特別会計を含めた積立金全体の23%強を占める。今回採用したESG指数は全体の8割超を占めるパッシブ運用で、TOPIXなどに連動する時価総額型。2014年に始めたスマートベータ型と並ぶ3本柱となっている。運用資産の23%強を占める外株でもマネジャー・エントリー制の枠組みで提案を受け付け、採用を検討する方針だ。

世界の大きな潮流

  指数2本が採用された米MSCI社のヘンリー・フェルナンデス最高経営責任者(CEO)は13日、都内でのインタビューで、ESG投資は「世界の大きな潮流だ」と述べた。若年層を中心にソーシャル・ネットワーク・サービス (SNS)が普及した現代では環境汚染や気候変動、女性などの問題に対して社会が寛容ではなくなり、透明性を求める傾向にあるとし、「投資の世界も無縁ではいられない」と指摘した。

  総合型1本が採用となった英FTSEラッセル社のマーク・メークピースCEOは同日、都内でのインタビューで「欧州ではまず公的年金がESG投資を導入し、他の年金基金に広がった経緯がある」と指摘。「GPIFの導入はタイムリーだ。日本でも1年以内に全ての年金基金がESG要素を考慮するようになる」可能性があり、同社の指数に採用した日本企業151社が「今後1、2年の間に母体指数500社の約半分に増える可能性は十分ある」との見解を示した。

  世界持続可能投資連合(GSIA)の報告書によれば、社会的責任投資(SRI)の残高は世界全体で昨年22.9兆ドル。3年間で25%増えた。日本は主要国・地域で最も急速に膨らんだが、調査対象の拡大に押し上げられた面があり、残高は4740億ドルと全体の2.1%で欧州の約25分の1、米国の約18分の1にとどまっている。

  GPIFは15年にESGの視点を反映させる国連の責任投資原則(PRI)に署名。今年初めからは水野氏が責任投資原則協会の理事も務めている。水野氏は投資家のESG重視という世界的な流れを痛感する一方、環境への配慮などに取り組む日本企業へのESG評価の低さに驚き、このままでは日本企業は国際的に有力な投資家からの評価と資金を得られないのではないかと懸念を抱いたと語る。

数年以内にESG先進国

  水野氏は、日本企業の低評価は海外のESG調査機関を満足させるほど十分に情報開示していないからではないかと分析。すでに実践している取り組みの開示を進めれば、海外からのESG評価がかなり上がるのではないかと考えるに至ったと言う。それでも駄目な企業はESGへの取り組み自体を強化しないといけない可能性があるとみる。

  その上でGPIFのESG投資については、日本企業がESGに取り組めばビジネスの持続可能性が高まるとの認識を広めることと、ESGを実践しているのに海外の調査機関が求めるような情報開示が不十分な企業が適切な開示で正当な評価を得られるように促すという二つの狙いがある、と水野氏は説明した。

  日本経済の活性化を目指す安倍晋三内閣はGPIFを中心とした公的資金の運用・組織改革とともに、企業の国際競争力を高めるため経営への外部監視を強める統治改革を推進。投資家規範を定めたスチュワードシップコードに続き、15年には上場企業に独立(社外)取締役2人の選任などを求めるコーポレートガバナンスコードを導入した。

  GPIFは今回の選定に当たって指数会社に対し、銘柄は公開情報に基づいて選び、かつ方法論を開示することや、企業への説明機会を増やすよう求めた。水野氏は従来は指数会社が一方的に銘柄を選んで投資家が利用する点で「ミシュランガイド」のような面があったが、今回は方法論の開示を受けた企業からのフィードバックもあり得ると指摘。選ばれた企業、選ばれなかった企業の対応を注視していく考えを示した。

  米MSCIが抱えるESG関連の顧客約1000社の6割は米国とカナダ。アジアでは約160社にとどまり、日本は20社しかいない。ただ、GPIFのESG導入以降、日本の投資家からの「面会や情報提供の依頼が殺到しており、状況は劇的に変わりつつある」と、フェルナンデスCEOは指摘。「日本は数年以内にESGの先進国になるだろう」と話した。

  英FTSEラッセルの調査によれば、日本の上場企業のESG評価は最近15カ月間の改善率が世界で最も高い。メークピースCEOは、日本企業は環境分野で他国より優れている半面、社会とガバナンス関連では世界の平均を下回ると指摘。「必ずしも活動自体が劣っているわけではないが、特に課題となるのが情報開示と方針策定だ」と述べた。

  水野氏はESGへの取り組みに直面する日本企業には、米欧の決めたルールで評価されることへの恐れはあると思うが、日本は環境・社会問題への配慮が最も優れた国の一つなので心配には及ばないと指摘。日本企業はESGの分野でも十分に競争力があると信じていると語った。

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