先進国で最も活気のない医薬品市場で、なんとか成長し続けるためにはどうしたらいいのか。日本の医薬品メーカーは患者の正確な服薬の継続をサポートすることで、それを実現しようとしている。

  薬の飲み残しは日本の医薬品販売の現場でも、健康を阻害する要因になっているようだ。大塚製薬エーザイなどの製薬会社は、服薬管理の徹底策でテクノロジー企業と連携。決められた服用時間を患者に知らせる機器から、別の場所で見守る家族や医療関係者に状況を自動通知している。

エーザイの服薬支援機器「eお薬さん」
エーザイの服薬支援機器「eお薬さん」
Source: Eisai

  こうした戦略は、膨張する医療費の削減を模索してきた医療システムから利益を守るために効率化を進める世界の医薬品業界の潮流と一致する。少子高齢化が医療費急増の原因となっている日本では、患者に医師が定めた通りの服薬を補助するこの取り組みが、向こう5年で世界ペースの半分しか伸びないと予想される医薬品販売の拡大を刺激する可能性がある。

  日本医療政策機構の宮田俊男理事は、日本は「医療システムの変化に応じた過渡期にあり、製薬会社はマーケティング手法を変えてきている。より一つの薬を末永く飲まれるようにする」必要が出てきたと指摘。厚生労働省医薬食品局審査管理課の課長補佐も務めた宮田氏は、「そのためには病院密着型の営業でなく患者の生活の質改善を行政や医療者と一緒に考えていくべきだ」と語った。

  規定通りの服薬が実現すれば、薬の飲み残しがなくなることなどで政府が社会保障費として多くを賄っている医療費を軽減できる可能性がある。患者も同じ出費の中から適正な治療効果を期待できるようになる。製薬会社にも効果の認められた薬を継続して患者に販売できるなど複数のメリットがある。

薬の飲み忘れ

  かつて開発したアリセプトがアルツハイマー病治療薬のベストセラーとなったことのあるエーザイは、患者の服薬管理を改善するための服薬支援機器を製作。また家族や介護者が医療情報を入力し、医療関係者と共有できるオンラインカルテをNTTと共同で開発した。

  抗精神病薬エビリファイを販売する大塚製薬は、抗血小板薬プレタールの服用を患者に知らせるオンラインシステムをNECと開発した。現在、スマートフォンなどを活用し患者に薬の服用を促しながら服薬管理のデータを医師らに送信する新たなパッケージサービスの提供に向け、包装容器の一部変更を厚生労働省の承認を申請中だ。

  日本の医薬品メーカートップの武田薬品工業は、米国で腕時計型の機器を使って患者をリアルタイムでモニターできるプログラムを導入している。日本でも潰瘍性大腸炎の治療薬であるエンティビオの承認後に、患者の症状や生活習慣を追跡し生活の質(QOL)向上を助け、この薬の販売を補助する同プログラムを採用する予定。

コミュニティーの役割

  医療コストの増加を抑制しようとのプレッシャーは日本ではより深刻だ。先進国の中でも高齢化率や人口に対する病床数の割合はトップ。政府はコスト削減の一環として、これまで主に病院入院中心の医療を行ってきた医療をより地域コミュニティーでも担ってもらおうと試みている。

  埼玉県深谷市にある処方箋薬局中央薬局(日赤前店)。中央薬局の大竹真史・薬局長は、アルツハイマーを患う85歳女性の服薬管理のモニターで、エーザイの機器に信頼感を寄せている。この女性はアリセプトのほか7つの薬をそれぞれ別の組み合わせで、別の時間に服用する必要がある。

  大竹氏は機器の効力について「半信半疑だった。服薬管理が悪いのは認知症だからという固定観念があり改善は無理だと思っていたが、使い始めてから服薬率が改善した。いつ飲んだのか、飲んでいないかも分かる」。これにより「医師とのコミュニケーションも深まる」という。この女性が正しく服薬した割合は以前の70%から98%に上がった。

企業の利益追及

  エーザイhhcソリューション本部の田芳郎本部長(上席執行役員)は「地域包括ケアシステムの構築をするにあたって、われわれのアセットをもとに、どういうことができるかを考えた。適正な形で貢献し、その結果として事業が成立していくということを10年間かけてやろうとを決めた」と語った。

  ただ、慎重論もある。京都大学こころの未来研究センターの広井良典教授(公共政策)は、こうした技術開発は「高齢者の服薬に関する全体としての費用対効果という視点から、総合的に活動を評価することが重要だ」と指摘する。

  患者や医療の受け手にとって、やり方によっては医療の無駄遣いを減らし費用対効果を高める可能性もあるが、その一方で製薬企業が行う事業であり当然ながら利益拡大というインセンティブが存在し、結果的に医療費増加の方向に進む可能性も十分にある」と指摘。活動と結果を注視してくべきだとの考えを示した。  

  世界では製薬会社が服薬管理のプラットホーム作りでテクノロジー企業と連携する動きが広がっている。仏サノフィーはグーグルを傘下に持つ米アルファベット社の生命科学部門と糖尿病患者の服薬について、機器や管理ソフト、医薬品をつなぐ合弁事業に5億ドルの投資を5月に発表。英グラクソが慢性的な肺疾患の治療でベンチャー企業と組んだり、米アップルの「リサーチ・キット」を研究に活用する動などのきもある。

原題:Pill-Popping Is a Business Worth Watching for Japan’s Drugmakers

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