もはや「地方」銀行とは名ばかりになりつつある--。地方で集めた資金を地元に還流せずに近隣大都市の企業などに貸し付けるケースが地銀で増えており、専門家からはこんな声も聞かれる。日銀によるマイナス金利政策に加え、高齢化や人口減少などの構造問題を抱える地銀の経営は混迷を深めている。再編機運も高まる中で、求められるのは地域活性化への貢献だ。

  S&Pグローバル・レーティングスの吉澤亮二主席アナリストによれば、過去10年間の地銀の貸出増加額はマーケット縮小が続く地方に比べて大都市圏(札幌、仙台、東京、名古屋、大阪、福岡)が2.8倍に達した。地元に十分な貸し出し需要がないため大都市シフトが起きているのだという。

  金融庁が6月に集計した地域銀行106行の2017年3月期決算概要は、当期純利益が前期比15%減少した。融資利息や金融商品販売手数料など本業のもうけを示す実質業務純益は同19%減と、その前の期の同1.8%減から大幅に悪化した。SMBC日興証券によると、上場地銀82行の18年3月期純利益予想は前期比17%減と、厳しい経営環境は続く見通しだ。

  大和総研の調べでは、03年以降の地銀同士の合併や提携は合計21件あるが、このうち16年~18年(予定含む)で8件と加速していることが分かる。同社の内野逸勢主席研究員は地銀について、いまの経営状況が続けば25年には地銀の86%が本業で赤字に転落すると試算する。この悪夢に飲み込まれずに本業の貸出業務からの利益率を黒字化するには、貸出残高8兆円が一つの目安になるという。貸し出し業務では「規模の利益が効いてくるため、地銀同士の再編も選択となり得る」とみている。

「このままではだめだ」

  昨年の伊勢志摩サミット開催や自動車レースで有名な鈴鹿サーキットがある三重県。人口180万人の同県には地銀3行が本拠を構えるが、このうち三重銀行と第三銀行が2月に経営統合を発表した。18年4月に持ち株会社を設立して、将来的には2行を合併する計画だ。現在の業容を単純計算すれば貸出金残高約2兆6000億円、店舗数173の中堅地銀が誕生する。県内トップの百五銀行(同残高約3兆円)と肩を並べるが、大和総研の試算を基にすれば合併しても十分な規模とは言えない。

第三銀行と三重銀行のATM
第三銀行と三重銀行のATM
Photographer: Shingo Kawamoto/Bloomberg

  「このままではだめだよね」ということから今回の統合が始まった。第三銀の岩間弘頭取と三重銀の渡辺三憲頭取は名古屋大学の同窓で同い年。お互いに経営トップに就任したころから「ゴルフ仲間、飲み仲間」になった。何回か会ううちに経営統合の話になり、「いずれは考えないと」から「もう考えないと」に統合機運が高まった。その2人の背中を押したのはマイナス金利だった。

  両行が経営統合に踏み切った背景には3つの課題があった。人口減少による地元経済の縮小、市場金利の低下による収益性悪化、金融と情報技術(IT)を融合したフィンテック企業など異業種参入の脅威だ。統合にあたって合理化と効率化を図る一方で、愛知県などの近接地域での競争力強化を基本方針に掲げた。地域経済活性化と大都市への進出で生き残りを目指す考えだ。

  三重と隣接する愛知はトヨタ自動車やデンソーなど製造業を中心に世界的な大企業が本拠を構える工業県。人口、事業所数はともに三重の4倍以上で750万人、33万8600社を抱え、製造費出荷額は43兆8000億円と全国1位。近隣県からみればビジネスが生まれる宝の山と映る。

  しかし、S&Pの吉澤主席アナリストは、都市部ではメガバンクなどとの金利競争によって収益性が低下するため、大都市への進出は「信用力を見る上ではプラスにならない」との見方を示している。

プライスリーダーになれ

  第三銀の岩間頭取は、統合相手に三重銀を選んだことについて「あくまでも三重県の銀行なので、地元の人に支持してもらわないとならない。地元第一に考えた」ことの結果だという。三重銀の渡辺頭取は、経営統合で「時間を買った」と指摘。この低金利下では新店舗の黒字化には時間がかかることを勘案すると、統合によって経済規模が大きい愛知県で合計34店舗を構えることができる利点は大きいと説明する。

  同一県内の地銀統合について大和総研の内野主席研究員は、「規模の利益とともに競争が緩やかになるメリットがある」とみる。統合後は「地元の中小企業取引の深掘りと金利をコントロールできるプライスリーダーになることが重要。そこから近接する大都市への攻勢が有効」と指摘する。

  アイスクリーム「あずきバー」が有名な井村屋グループは、三重県を代表する企業だ。浅田剛夫会長は、東京など全国展開に加えて米国や中国でのビジネスでは三菱東京UFJ銀行がメイン行となる一方、「地銀からは地元のきめ細かな情報提供が大いに役立つ」と指摘。最近、本社近くの工場拡張では第三銀からの情報が生かせたという。銀行取引については「是々非々」で機能別に支援を期待している。

  浅田会長は三重銀と第三銀の経営統合について「県の北部と南部の銀行同士が一緒になることでお互いを補完でき、われわれにとっても強い企業体質になる金融機関との取引は良いことだ」と歓迎する。昨今の低金利下では銀行の差が付きにくいことから「地銀ならではの経営に役立つ質の高い情報提供が取引する一番の決め手になる」と述べた。

プライドが高い地銀

  全国地方銀行協会の佐久間英利会長(千葉銀頭取)は、地銀の経営統合について「少子高齢化や人口減少の中では持続可能なビジネスモデルを確保する上で選択肢の一つ。今後も各地で議論されるのではないか」とみている。地銀の大都市での貸出増加については「厳しい収益環境の中、逆に地元で貸し出しを増やして収益を取っていくことが見直される」と指摘する。

  ボストンコンサルティンググループの五味廣文シニア・アドバイザー(元金融庁長官)は、地銀の再編について「人口も経済も縮んでいく中では有力な選択肢」とみるが、「プライドが高い地銀は名前さえ変えられないし、そう簡単には進まない」と指摘。再編では「資本提携を伴わないやり方も有効な手段」とみる。

  首都圏にある千葉銀行と埼玉県の武蔵野銀行は16年3月に出資を伴わない包括提携を締結した。個々の業務で協力し合う地銀同士の新たな連携スタイルで、お互いに独立経営を堅持しながら地元を重視する考えのもとで編み出した生き残り策だ。今夏には千葉銀傘下のちばぎん証券が埼玉県内に営業拠点を開設して武蔵野銀の証券ビジネスをサポートする体制に移行する。

  五味氏は、ビジネス環境が変わっても「金融機能を発揮して地域の発展に役立つという地銀の役割は不変」と指摘。かつての不良債権問題による金融危機的な状況と比べて「今は低金利という制約はあるが、金融機関は本来の活動がしやすい正常な環境にある。この環境下で地域の特性に合わせてどんなリスクをとるのか、どうやって成長していくかが問われている」と述べた。

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