最初の宇宙開発競争は国家の威信と軍事的優位性を競い合った米国と旧ソ連の間で起きた。現在の開発競争では火星やその先への到達を目指して国と企業が手を組むといった新たな側面が見られる。ただし、宇宙の魅力はスプートニクやアポロ号に乗った先駆者が感じたそれと変わっていない。いつの時代でも、人類は未知の世界への探検に憧れてきた。そしてコストに見合ったメリットがあるのかと世間が気にする点も変わっていない。

現状

  米政府と商用宇宙事業を手掛ける企業は月面に戻ること(およびそれよりはるか先への到達)を計画している。NASAが月や火星への到達計画を提案する際に極めて重要であるとされていたかつての目的はない。だが、今は注目を集めている構想があり、それはイーロン・マスク氏やジェフ・ベゾス氏などの富豪が打ち出している。偉大な業績を求めるトランプ大統領は、ロッキード・マーチンが深宇宙飛行を目指して開発中の新型宇宙船「オリオン」に乗って月を周回する有人ミッションを検討するようNASAに要請した。月の周回を巡っては、マスク氏率いるスペース・エクスプロレーション・テクノロジーズ(スペースX)も計画しており、今年2月には民間人2人を乗せ月の軌道を回る旅行を来年実施する独自のミッションを発表した。アマゾン・ドット・コムに加え、宇宙関連企業ブルーオリジンの創業者でもあるベゾス氏は、クレーターの割れ目で凍っている水を「宇宙の大型ガソリンスタンド」用の燃料に変換できるようになれば、月の南極に恒久基地を建設したいと考えている。月に中継基地ができれば、人類が地球を住めない星にしてしまった場合の保険として火星を植民地にするという、マスク氏の夢が前進する可能性がある。スペースXは、人類が火星に住み続けるために必要なロケット群を供給したいと考えている。NASAは火星に液体の水が存在している兆候を発見しているものの、火星は「あちこち手を入れる必要がある」ものであることに変わりはないとマスク氏は述べている。月探査を視野に入れているのは米国だけではない。中国は月面に探査機を送り、サンプルを集めてから地球に戻ってくることを計画している。

背景

歴史
歴史
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  1957年10月4日に旧ソ連が世界初の人工衛星スプートニク1号を打ち上げ、宇宙の時代が幕を開けた。61年には再び米国に先駆けてユーリ・ガガーリンが人類で初めて宇宙飛行を体験した。当時のケネディ米大統領はさらなる高みを目指して、米国人の月面着陸を求めた。NASAが69年にこの目標を達成すると、アポロ計画による月飛行への関心は薄れていった。このためNASAは火星に無人探査機を送りつつ、初の再利用可能な宇宙船で飛行士を数百マイル先の軌道に送ることに焦点を移した。マスク氏は人類が他の惑星でも生活できるようにすることを目指して、2002年にスペースXを立ち上げた。オバマ前政権は10年に月探査計画を打ち切った後、マスク氏と同様のアイデアを採用し、月探査用に開発されたオリオン号を地球に近い小惑星や火星への有人ミッション用に変更させた。

論争

  そもそも実行する価値はあるのか。宇宙開発はコストがかかる上に複雑で、小さなミスでも命取りになる。火星までの道のりが技術的な課題よりも政治面で難しいものになりかねない一因である。予算の削減対象になることが多いNASAは、1000億ドルをかける国際宇宙ステーション(ISS)と少なくとも同等の費用が必要になりそうな取り組みを守らなければならないだろうが、これは難題である。このため、NASAは恐らく欧州や中国、インドなど宇宙の新興勢力を含め、米国外のパートナーや民間企業との協力を迫られるだろう。その結果、14年にロシアが20年より後の宇宙ステーションへの資金拠出をやめる可能性を示唆したときと同様、こうした取り組みは地政学の状況変化による影響を受けやすくなる。多国籍の火星飛行計画では、飛行中の食事から火星で発見されるいかなる希少鉱物に対する権利に至るまでの問題を巧みに扱う必要も出てくるだろう。過去の月探査レースでは、栄養補助食品や携帯電話用カメラセンサーなど様々なイノベーションが起き、米国人の生活は一変した。宇宙放射線研究を通じた医学の進歩のように、深宇宙の開発で得られる利益ははるかに大きなものになる可能性がある。

原題:New Space Race to Mars Is Facing Old Question of Why: QuickTake(抜粋)

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