国内の電力・ガス会社は、火力発電の燃料や都市ガスの原料となる液化天然ガス(LNG)のトレーディング機能を強化している。これまで需要に合わせて産ガス国から輸入する一方だったが、電力などの小売り自由化に加え、原子力発電所の稼働見通しが不透明な状況で、電力供給の調整弁となるLNGに過不足が生じる可能性が高まったためだ。

  関西電力は4月、LNGをより安く調達し、余剰分をより高く売ることを目指す「情報戦」を勝ち抜くため、LNG取引が盛んなシンガポールにトレーディング会社を設立した。新会社の社長に就任する猪飼秀明・燃料取引担当部長は、関連業者の集積地に進出し、トレーダーの情報網の中に入り込んで「いち早くマーケットの状況をつかむことが肝要だ」と述べた。同氏によると、シンガポールでは夜な夜なトレーダーたちが酒場に集まり、情報交換をしているという。

国内初の米国産シェールガスLNGを積載し、中部電力上越火力発電所に到着した「オーク・スピリット」
国内初の米国産シェールガスLNGを積載し、中部電力上越火力発電所に到着した「オーク・スピリット」
Photographer: Tomohiro Ohsumi/Bloomberg

  LNGプロジェクトの開発では液化設備などの建設で多額の投資が必要で、通常、生産能力の大半について最終投資決定前に長期契約で売り先を確保する。そのため、原油のような活発な取引市場は存在しなかった。

  ただ、昨年4月に電力、今年4月には都市ガスの小売りが全面自由化されて顧客争奪戦が激化し、日本の電力・ガス会社は需要変動にさらされている。特に電力会社は、発電電力量の約3割を担ってきた原発の代替発電用燃料としてLNGの購入を急増させた結果、原発再稼働の不透明さや天候に左右される太陽光発電の導入拡大に伴って、余剰LNGを転売する必要に迫られている。

  トレーディング機能を強化しているのは関西電だけではない。今年度に入って九州電力東京ガス国際石油開発帝石も本社内にLNGのトレーディング部門を設置することを表明したほか、東北電力も燃料先物や卸電力を取引するトレーディング会社を設立した。

  東ガス執行役員の比護隆原料部長は、「LNGのスポット市場はまだ相対取引の延長線上にあり、トレーディングという旗を揚げていないと仲間に入れてもらえない部分もある」と述べ、部門を設置するとともに海外駐在員を通じて情報を収集していく方針を示した。

日本をLNG取引ハブに

  貿易統計によると、日本のLNG輸入量は東日本大震災直後の2011年度に前年度比2割増え、全原発が完全に停止した14年度には過去最大の8907万トンに達した。最も原発比率の高かった関西電のLNG調達量は2倍近くに膨らみ、その多くをスポット取引で確保。昨年、運転の差し止めを求める住民の仮処分申請を認める裁判所の決定に従い高浜原発3、4号機を急停止した際にも、スポット調達量を1.5倍に増やして対応したが、販売の経験は少ない。

  各社がこれまでトレーディングに本格的に取り組まなかった背景には、従来LNG調達の主流だった長期契約に「仕向け地条項」が盛り込まれ、買い手による第三者への転売が制限されていたことがある。しかし、シェール革命の起きた米国から仕向け地制限のないLNGが出回っているほか、日本の公正取引委員会も仕向け地制限について独占禁止法上問題となる可能性があるとの報告書をまとめるなど、柔軟化に向けた動きが進んでいる。

  政府は昨年策定したLNG市場戦略で、20年代前半までに日本を流動性の高いLNG取引のハブ(拠点)とする目標を掲げた。その実現のため、世界のLNG需要の3分の1を占める日本の需給を反映した指標価格の確立や、仕向け地条項の緩和・撤廃による取引の活性化、LNG受け入れ基地の整備を支援している。

他社との連携も選択肢

  世界最大規模の約3500万トンのLNGを取り扱う東京電力ホールディングス中部電力の共同出資会社であるJERA(ジェラ)は、石炭トレーディングでフランス電力の燃料調達部門EDFトレーディング(EDFT)と組んで蓄積したノウハウを生かし、LNGトレーディング体制の構築を検討している。

  JERAの垣見祐二社長は、石炭ではEDFTと共に現物や先物を取引できる人員をそろえ、それを支えるITシステムやリスク管理体制を構築することで、国内で最も安い調達価格とシンガポールのトレーディング会社の収益拡大を両立できたと説明する。LNGでも、柏崎刈羽原発の再稼働などで生じるとみられる最大1000万トンの需給ギャップをスポット取引で埋めるだけでなく、拡大する海外需要を取り込み、収益源に育てる考え。その実現に向けては、他社との連携も「選択肢」に含まれると述べた。

  コンサルティング会社KPMG FASの宮本常雄パートナーは、電力需要が減少する中でLNGの買いポジションがある以上、トレーディングへの参入は「当然の判断」と指摘する。またLNGのトレーディングに多くの企業が参入すれば市場形成に役立ち、企業は市場を通じた「リスクの定量化」ができるようになるという。

  宮本氏によれば、日本の電力・ガス会社にとって最大の課題は、金融機関のように巨額の取引権限を持つフロントや、ミドル、バックオフィスというリスクを管理する組織体制の整備。買収を活用するにしても組織を変えていくきっかけにできるかどうかは大きなチャレンジだとの見方を示した。

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