エアバッグメーカーのタカタが民事再生手続きに踏み切ったことで同社株は上場廃止となり、価値を失う見込みだ。株主は痛みを受け入れることを迫られるが、最も大きな経済的打撃を受けるのは過半株式を保有する創業家となる。

  「全部1円、紙くずですからね」ー。27日に都内で開かれたタカタの定時株主総会に出席した神奈川県川崎市の会社員、朝日健一さん(36)はこうつぶやいた。タカタ株を買ったのは1年ほど前で、世界2位のエアバッグメーカーで大規模リコールの渦中でも営業利益を出し続けている点に注目した。私的整理で債務がカットされれば株価は大幅に上昇すると見込んで勝負に出たという。

高田重久会長兼社長
高田重久会長兼社長
Photographer: Tomohiro Ohsumi/Bloomberg

  タカタは結局、法的整理の道を選び思惑は外れてしまった。損失額は「100万円単位」になる見通しだ。朝日さんは「会社自体は素晴らしいと思うが経営者がいまいちだった」と振り返る。自社に有利な再建策にスポンサー候補や自動車メーカーを「言いくるめられなかったということはそれだけ経営者が弱かったということだ」という。

  高田重久会長兼社長が法的整理による再生を決断したタカタは祖父にあたる武三氏が1933年に滋賀県彦根市で創業。2代目の重一郎氏がシートベルトやエアバッグなどの新規事業に参入して業容を拡大した。今も高田家が事実上、株式の半数以上を保有している。時価総額で2000億円以上に達していたこともあり、国内有数の富豪だった一族の資産もほぼすべてが消失する。

上場廃止へ

  高田会長は民事再生手続きを申請した26日の会見で「創業家といっても実際には売れないと思っていた株があってそれが資産のほぼ100%」と自らの資産状況について明らかにした。上場したのは2006年だが、「経営の安定性ということでなるべくタッチしないで何かあったときに最終バッファになる」と50%以上の保有率を維持してきたといい、その分のキャピタルゲインを得る機会はなくなった。

  高田会長は経営トップとしての報酬のほか、リコール問題が深刻化する以前は一族として年間10億円以上の配当収入があった。タカタの資産を譲渡することで基本合意した米自動車部品メーカーのキー・セイフティー・システムズ(KSS)との最終合意の締結後に辞任する意向を示しており、今後はこれらの収入の道も断たれる。

  アディーレ法律事務所の池田辰也弁護士は、「タカタは自動車メーカーが肩代わりしているリコール費用が膨らむ結果、負債が資産を上回る債務超過の恐れがある状況にあり、その場合、一般的に株式の価値はないものとして扱われ、現在のタカタ株は無価値に近い」と話す。東京証券取引所はタカタ株を7月27日で上場廃止にすると決め、整理銘柄に指定すると発表した。

「三方よし」ならず

2代目の高田重一郎氏
2代目の高田重一郎氏
Source: Japan Automotive Hall Of Fame

  高田会長の母親でタカタの顧問を勤める暁子氏は27日夜、都内で取材に応じ、一連の経緯について「交通事故死傷者ゼロを目指してこれまでシートベルト、エアバッグの開発に取り組んできた。今回、民事再生法適用申請に至って創業家として株主の皆さんには本当に申し訳ないと思っている。心を痛めている」と話した。

  暁子氏はエアバッグインフレータ(膨張装置)の不具合の原因について、火薬の専門家を交えて検証を進めているという。タカタが採用していた硝酸アンモニウムだけでなく他社が使用している硝酸グアニジンも含め、火薬は基本的に経年劣化して設計通りの性能を発揮できなくなる問題があるとの考えを示し、車の安全確保へ向けて、定期交換を含め、部品会社と自動車会社、政府当局などの議論が必要と話した。

高田暁子氏
高田暁子氏
Source: Mainichi Newspapers

  京都府在住で製薬会社に勤める村瀬次彦さん(57)はタカタの創業の地である滋賀県彦根市出身。「売り手よし、買い手よし、世間よし」を掲げる近江商人の気風をタカタに感じて投資した。失敗の原因は創業家の力が強すぎたことと、他の社員は盲従するばかりで意見を表明できなかったことではないかと指摘し、「今となっては一番大事な世間よしの社会的な要請に対してしっかり答えることができなかった」と述べた。

  東京地方裁判所は民事再生手続きの開始決定をしたと、タカタが28日発表した。再生計画案については11月27日が提出期限となっている。タカタ株は29日終値で前日比8.6%高の38円だった。16日に日本経済新聞がタカタの民事再生方針を報道する直前の水準からは10分の1以下となっている。

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